「80、130、190、M」といえば? そう問われて「ピップエレキバン!」と即答できる方は、それを常備・常用し、出張や帰省時も必携する「ピップ信者」といえる。
最後に試し貼りしたのはいつだったか、それも思い出せないような向きには、2013年秋の全面リニューアル後の改名も、どこ吹く風といったところだろう。
ちなみに、冒頭に記した数字は、ピップエレキバンの「磁束密度」の違いを表す。初心者向けの80ミリテラス(800ガウス)を筆頭に、3タイプ+メントール配合(M)の4種類の製品が販売されている。
長年の基礎研究および臨床試験の成果を踏まえて登場したピップは、薬事法第2条6項に基づき「管理医療機器」の許可を厚生労働省から得て発売された。
ところが世の中には、この国民的(?)家庭用磁気治療器の効用に対する否定派もいて、1972年の販売開始以降の「効く/効かない」論争はネット時代の今日も続けられている。
ピップ側もこれらの否定意見は無視できないようで、現行のテレビCMではスーツ姿で神出鬼没な謎のイケメン男子(エレキバンを美しく見せるためのポージングを日々研究中というキャラらしい)を登用し、半信半疑派の主婦層や子育て中のママたちの取り込みに余念がない。
ピップのHP上でも、トップページに「疑う人にも磁気は効く!~疑っていた400人の約70%が満足した!~」の文字を躍らせ、自社調査の有意結果を掲げて「改善効果」を謳っている。
「信頼していない」の不信層が45%も
ピップは2015年5月、30~50代男女の322人を対象に「磁気治療器に対する意識調査」を実施した。対象者の条件は、次の3タイプに絞って行われた(※括弧内は編集部の補注)。
1.(症状に心当たりのある)肩コリ有訴者
2.(なんらかの救いを求める)市販のコリケア製品3カ月以内使用者
3.(半信半疑派も含む)磁気治療器利用意向者
上記3つの条件を満たした磁気治療器未購入者にはまず、次の2つの前提的質問を投げかけた。
(1)磁気治療器を信頼してますか?
(2)磁気治療器のコリ改善に対する効果をどのように感じていますか?
結果は(1)の問いに「信頼している」が55%と過半数を上回ったものの、「信頼していない」の不信層が45%もいることが判明。その不信層のみに回答してもらった(2)の問いについては、「磁気治療器を知ってるが、その効果についてよくわからない」が59%を占めた。
そこで、20~60代男女400人を対象に行われた昨年8月のモニター調査では、両肩の凝り部分を指で押し、「少し痛い/気持ちいい」を感じる両ポイントそれぞれにピップエレキバンを3つずつ貼って、そのまま5日間を過ごしてもらった。
その結果、「満足した」が約70%、肩凝り改善効果に「驚きがあった」が51.8%と、それぞれ「不満足」と「驚きナシ」という回答より優位に立ったというのが、ピップの報告として載せられている。ただし、被験者の声々の引用は、どうしてもPR臭が避けられないので、直接参照いただきたい。
プラセボか? 磁気効果か?
もちろん、自社調査の優勢結果だけで「単なるプラセボ(偽薬効果)ではないか?」「あの程度の磁気で生理作用の変化は起こりえない」「エビデンスを示せ」と否定する層を納得させられるものではないことはいうまでもない。
専門家はどう見ているのだろうか。
豪・Curtin大学で最新の理学療法を学んだ理学療法士の三木貴弘氏は、次のように語る。
「使用した本人が効果を感じれば、それは有効だとはいえます。ただし、この報告だけでは、プラセボなのか、磁気効果よるものか、判断に迷うところです。ヒップエレキバンを『効果がある』と断定するには、より広い視野で考えなければいけません。その機序を示すには、もっと大規模な研究が必要でしょう」
さらに三木氏は、その効果を過信してはいけないとも話す。
「そして大事なことは、『ピップエレキバンを貼れば治る』と過信しないこと。日常の姿勢を正したり、適度な運動を行ったり、基本的な改善が重要です。投薬やヒップエレキバンのような受動的な治療法だけではなく、能動的な(自ら進んで行う)方法が肩こり改善には有効です」
ピップのHP上にも「生活習慣病としての肩コリの要因」(出典:日本整形学科学会サイト)というコラム欄が載っている。要は現代人特有の、重すぎるショルダーバッグの携帯や冷え過ぎ、猫背や長時間のデスクワーク、運動不足や精神的ストレスなどの改善こそが「ピップいらず」への第一歩だろう。
ライバルの「アンメルツ」はいよいよ米国進出
それにしても「トラベル貼り」や「ごほうび貼り」「ゴルフ貼り」など、貼るポイントも枚数も用途別に推奨するピップ造語もさまざま。ピップは韓国・台湾・香港などでも販売されているそうだが、それで思い出したのがやはり東南アジアを中心に8カ国・地域で人気の外用消炎鎮痛剤「アンメルツ」の存在だ。
昨年、発売50周年を迎えた「アンメルツ」が、いよいよ米国進出を決めたというニュースが話題を呼んだ。ピップの絆創膏部分は、入浴時にも装着が目立たない日本人(黄色人種)の肌色仕様が特色だが、アンメルツの売りは「見えない肩凝り薬」という開発コンセプトだった。
このライバルの米国進出を、いったい<ピップ信者>たちはどう受け止めているのだろうか。たかがピップ、されどピップ、白人肌や黒人肌などの仕様構想はないのか――。いずれにせよ、興味を引き寄せる磁気的存在には違いない。
(文=ヘルスプレス編集部)