日本人が最もたくさん食べている野菜は何か?
厚生労働省の国民健康・栄養調査および国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所の調査(いずれも2012年)によると、日本人3万2228名の1日当たりの平均摂取量は、多い順に、「大根」が33.8g、「玉ねぎ」が31.6g、「キャベツ」が26.9g、「白菜」が21.3g、「人参」が20.4gとなっている。
大根は、サンマやサバの塩焼きに添える大根おろし、タクアン漬け、おでん、切り干し大根、大根サラダ、刺し身のつまなど、食べ方も季節も選ばない多彩さや風味が魅力だ。
だが、大根は辛く、黄変する性質がある。この辛味と黄変の正体は、グルコシノレート(カラシ油配糖体)の一種であるグルコラファサチン(4-メチルチオ-3-ブテニルグルコシノレート)だ。
3月3日、東北大学大学院農学研究科国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構の北柴大泰准教授と柿崎智博主任研究員らの研究グループは、大根の辛味成分であるグルコラファサチンを作る酵素遺伝子「GRS1」を発見したと米国植物生物学会誌『Plant Physiology』に発表した。
これまで、グルコラファサチンをまったく含まず、辛味成分が変化した突然変異体の存在は知られていたが、グルコラファサチンをつくる酵素遺伝子GRS1の実体は不明だった。
北柴准教授らは、財団法人かずさDNA研究所と協力しながら、2014年5月に大根ゲノムの塩基配列を世界に先駆けて解読し、グルコラファサチン合成酵素の研究をひたすら進めてきた。
タクアン臭もせず黄変もしない新ブランド
北柴准教授らは、今回の研究成果を生かすために、岩手大学、野菜茶業研究所、タキイ種苗と連携しつつ、酵素の遺伝子GRS1の塩基配列に基づいて開発したDNAマーカーを利用してグルコラファサチンの辛味成分の組成を変化させ、グルコラファサチンを含まない新品種「悠白(ゆうはく)」と「サラホワイト」の育成に成功した。
悠白とサラホワイトは、長期間保存してもタクアン臭や黄変が生じないので、大根ならではの美しい白さ、さっぱりしたフレッシュ感が食欲を刺激する。
つまり、一般の大根は、GRS1遺伝子が働くため、グルコラファサチンによるタクアン臭や黄変が生じるが、GRS1遺伝子を欠損させると、グルコラファサチンの辛味の組成が変化するので、タクアン臭や黄変が生じないのだ。
今後、新たな大根加工食品の開発が加速すれば、レパートリーがどんどん増えそうだ。
切り干し大根の栄養価は生の大根と比べて鉄分約49倍、カルシウム約23倍!
さて、ここで大根のトリビアを紹介したい。
大根の根は、水分が94.6%。胃酸過多、胃もたれ、胸やけに効果があるジアスターゼ(でんぷん分解酵素)が豊富な低カロリー(100g当たり18kcal)のヘルシーな淡色野菜だ。大根おろしは、まさに完全食といえる。
今回のグルコラファサチンのほかに、抗がん作用や抗菌作用がある辛味成分のアリルイソチオシアネート(芥子油)も含んでいる。
ただ、大根おろしは、おろした瞬間からビタミンCが急速に減少するので、食べる直前におろすのがコツ。少し時間をおく時は、お酢を少々入れれば、ビタミンCが安定する。
大根の葉は、ビタミンC、ビタミンE、ベータ-カロテン、カリウム、カルシウムを多く含む緑黄色野菜だ(五訂日本食品標準成分表より)。刻んで、味噌汁や納豆に入れると、シャキシャキした歯ごたえがおいしい。
案外、知られていないのが、切り干し大根の高い栄養価だ。大根は、太陽光を浴びると、水分が減り、紫外線や酵素による縮合反応(分子の結合)が起き、大根のうま味が糖化され、栄養素が凝縮されるため、栄養価がアップする。
切り干し大根の栄養価は、生の大根と比べて、鉄分は約49倍(100g当たり9.7g)、カルシウムは約23倍、カリウムは約14倍、食物繊維は約16倍、ビタミンB1・B2は約10倍も高い。
生の大根は100g中に約3gの糖質を含み、切り干し大根にすると糖質が100g中に47gに増える。だが、1食10g程度なら糖質は4.7gなので気にならない。食べ過ぎだけに注意しよう。
また、水で戻す場合、カリウムやうま味成分が失われるので、戻し水は捨てずに調理に使おう。
水を使わないで戻す方法もある。ヨーグルトで戻せば、切り干し大根のミネラル分を多く抽出でき、乳酸菌と食物繊維の相乗効果によって善玉菌が増え、腸内環境を改善できる。そこで、切り干し大根のゴマ味噌和えなどはいかがだろうか。
大根が特においしい旬は7月~8月頃と、11月~3月頃。最後に健康な大根の選び方をお教えしたい。1本の場合は、葉がみずみずしく黄色くない、ひげ根が少なく、ハリとツヤがありずっしりと重い、この3点を見て選ぼう。
大根は上ほど甘く、下ほど辛い。大根おろしなら上、ブリ大根や煮物なら中央、薬味なら下といった具合に、調理方法に合わせて選ぼう。
大根談義がすっかり長くなった。毎日食べよう、生の大根、切り干し大根!
(文=ヘルスプレス編集部)
佐藤博(さとう・ひろし)
大阪生まれ・育ちのジャーナリスト、プランナー、コピーライター、ルポライター、コラムニスト、翻訳者。同志社大学法学部法律学科卒業後、広告エージェンシー、広告企画プロダクションに勤務。1983年にダジュール・コーポレーションを設立。マーケティング・広告・出版・編集・広報に軸足をおき、起業家、経営者、各界の著名人、市井の市民をインタビューしながら、全国で取材活動中。医療従事者、セラピストなどの取材、エビデンスに基づいたデータ・学術論文の調査・研究・翻訳にも積極的に携わっている。