「4月8日」と「4月11日」という日付から何を連想するだろうか--。
実は、多くの学校で新学期が始まるこの両日は、例年、夏休み明けの「9月1日」に次いで「自殺する児童生徒」が多いとして、教育関係者の間では知られている日付なのだ。
『自殺死亡統計の概況』(厚生労働省大臣官房統計情報部)から1日平均自殺死亡数を月別で閲覧してみても、多くの年で「4・5月がピーク」であることが明白だ。
また、「尾木ママ」の愛称で知られる教育評論家の尾木直樹氏が、今年も4月8日、自らの公式ブログで「いじめで辛い時は『学校休んでいいんだよ…』。危険からの避難だよ!」と呼びかけた背景にも、そんな事情があったようだ。
このような日本の児童生徒の自殺傾向の一方、アメリカの事情はどうだろうか。その一端が垣間見れる最新報告が、3月21日付『American Journal of Psychiatry』(オンライン版)に掲載されたので要約してみよう。
アメリカ「銃社会」の自殺リスクの実態
コロンビア大学医療センター(ニューヨーク市)精神医学教授のMark Olfson氏らの研究が示唆した、自殺関連のアメリカの事情は、次のようなものだった。
自傷行為を行った人の場合、「1年以内の自殺リスク」も高い。その自傷の再発リスクに関しては、年齢別では高齢者、人種別では白人、そして、うつ病やアルコール依存症などの精神疾患の治療を「最近受けた人」に、とりわけ高い傾向が認められた。
研究に際しては、全米45州のメディケイド(Medicaid:民間の医療保険に加入できない低所得者・身体障害者に対して用意されたアメリカ合衆国連邦政府の公的医療保険制度のひとつ)の情報に基づき、2001~07年の期間中に「初回の自傷歴」が確認された対象者(6万2000人強)について解析が行われた。
その結果、自傷(歴アリ)患者の場合、その後1年以内の自殺率は「人口10万人あたり年間439.1人」に上り、一般集団比で約37倍だった。なかでも男性患者の自殺死亡リスクが女性の2倍を占めており、白人の高齢者は「白人以外の若年者」の3倍に相当した。
さて、ここからが「銃社会」として知られるアメリカならではの事情となるのだが……。初回の自傷行為に「非暴力的な手段(薬物など)」を選んだ層と「暴力的な手段(銃など)」を用いた層とを比較した場合、その後の自殺リスクは後者、つまり「暴力的な手段」のほうが高く、そのうち40%超の事例で「銃」が絡んでいた。
過労自殺問題で揺れる電通の新入社員たちは……
さらに、初回の自傷行為に「暴力的な手段」を用いた層の場合、「自傷行為から1カ月以内の急性期(不安定期)」の自殺リスクが高く、その比率は残る11カ月間の約10倍にも相当したというから、「銃の悪魔的な誘惑」の怖さがわかる。
「急性期」の定義は医学上、曖昧ではあるものの、論文主筆者のOlfson氏は、次のように述べている。
「われわれの研究成果として、自傷行為後の数カ月間は患者の安全を確保できるよう、周囲が尽力すべきであることが示唆された。その時期の自傷患者の自殺リスクを低減するためにも、医師陣は入院や監視強化、彼らの背景にある精神疾患の治療を十分に考慮するべきだと思われる」
翻って、アベノミクス下のわが国では、昨秋、大手広告代理店・電通に勤務していた新入社員の過労自殺が社会問題化。2017年度の入社式が行われた4月3日、渦中の新人広告マンにマイクを向けるテレビ局の姿も散見された。
あにはからんや、むしろ「周囲の人たちのほうが心配している」と新入社員たちは異口同音に語り、「仕事のキツさや上限関係の厳しさ」は織り込み済みで、「早く一人前になりたい」と意欲を述べる声が大多数を占めていた。
一方、暦がめくられ、ゴールデンウィーク期間中の浮かれも終われば、「例年、自殺が急増する」といわれる「5月病」の季節がやってくる。そのタイミングを前に公表された「世界のうつ病患者3億人超」という世界保健機構(WHO)の報告については、次回の記事で紹介しよう。
(文=ヘルスプレス編集部)