11月後半から、本来であればアパレルの売場は“あばれている”はずである。気温も下がり、ブラックフライデー、ユニクロの誕生感謝祭と洋服を買うキッカケも増えている。従来、11月23日の勤労感謝の日を含む週では、コートなどの大物が多く売れる時といわれてきたのだが、ここ数年は11月の気温が高めに推移し、かつ、このコロナ禍である。「何か新しいのを!」というのは、一部のアウトドア関連、コートの下に着るセーター、肌着類となり、とても“あばれている”とは言えなかった。
アパレル業界では、商品の仕入れ計画が春夏、秋冬と大きく2つのシーズンで立てられる。そして、シーズンの後半では、もろもろの状況変化(お客様の気持ち、気候など)に対応できるように柔軟な構成を用意していく。それまでの在庫品とも組み合わせることができるようにしたり、売場への新しい商品の種類を少し増やして反応を見てみたり、などなど。「12月後半から1月のセールで売れば」と思っていても、近年は値段が下がって売れるものは限られており、むしろ次を探し始める。
そこで、12月になった今週では、駅ビルの若者向けブランドや、郊外モールで大きな売場をもつブランドで、「冬素材、春カラー」の商品も投入されていく。ある時期に買っても、なるべく長く着ることを求めるお客様に対応するためで、これが一定の割合を占める。徐々に売場が変化していくのである。ということは、その後の商品も、消費者からはあまり見えないところで計画されている。ブランドサイドが来年の春の商品を考える時、
「現在のお客様の感情、ニーズはどうか?」
「新しい動向(素材・技術・トレンド)をどう解釈するか?」
「今年の春は各店舗で休業を余儀なくされたが、それは来年にどの程度戻るのか?」
などの前提条件を考えつつ、商品を具体化していく。「ECがさらに伸びている」とか「ビジネス向け商品で無難なものはいらない」など発注数量に関係する要素やその影響を明らかにする必要もあり、商品の担当者としては、実は頭の痛い時期なのだ。
平行して、多くの繊維商社では展示会を開き、各ブランドへの新規素材、商品の提案を重ねていく。繊維商社といっても一般の消費者には耳慣れないが、素材を商品化する過程を複合的に行う商社で、多くのブランドと取引し、そのブランド名の商品タグで製造を請け負う。
製品化に至る過程
今回は、そのなかの一つ、クロスプラス株式会社の春夏展(婦人物)での提案をいくつか紹介したい。
「ルームウェア(部屋着)で新しい提案をしたいというお客様が増えています」と語るのは、この展示会全体を構想した責任者。この分野はステイホームやテレワークの増加で、その素材やデザインの多様性が求められている。言い方を変えれば、新しいのを買ってもいいなぁとお客様が密かに思っているところである。今人気のモコモコ素材の新しいデザインやワンマイルウェアという、部屋のみならずコンビニへ買い物に行く時にも着ることができる一着も提案して、各ブランド商品担当者からの知恵を含み、製品化に至るという。
別のコーナーでは、「MARU DE」という括り方で麻のように見える素材、サンプルの提案を行っていた。麻は夏からの素材でだいぶ先のものだが、皺になりやすいなど扱いが難しい。一方、その涼しげな感じが好きというお客様が多いものだ。今回の展示会では素材を工夫しながら、手軽に楽しんでもらえるサンプルを数多く提案している。
その他も多くの提案があって、ブランド担当者との活発な商談が進んでいた。今回の展示会全体テーマは「フライイング ファンクション(機能を超える)」とのことで、商品における機能性と価格パフォーマンスが強く求められる昨今、それを前提として、さらにどんな価値をつくれるか、挑戦しているという。
繊維商社の展示会というと、従来では「どこかで見たことがあるベーシックなデザインが並ぶ」という印象が強かったが、これは変わっているようで、“固有の強み”を活かして、超えようとしているようだ。
多くのブランドでは、現在でも「前年対比売上」「仕入れに対する売上割合(消化率)」に忙殺され、「何かを止めて何かを加える、そのためにいくつかの挑戦を行う」ということを忘れている。というか、コロナ禍で先が見えないなかで、「余計な動き」といわれたくないという感情が強まっている。
しかし、その結果生まれるのは「昨年と同じ売場」であって、お客様から見るとまったく変化がない。毎年毎月、新たな試みを加えてお客様を迎える、そこに担当者やその仕入先の個性を出せたらと願い、引き続き現場を歩いていきたい。
(文=黒川智生/VMIパートナーズ合同会社代表社員)