誕生日に自殺する人は、ほかの日の1.5倍――。
大阪大学大学院国際公共政策研究科の松林哲也准教授らの研究グループは、厚生労働省の人口動態調査の約207万人のデータを分析することで、「誕生日の自殺率は普段の1.5倍に及ぶ」という研究内容を発表した。
欧米では、誕生日に誰からも祝ってもらえずに孤独感にさいなまれることで自殺する「誕生日ブルー」という仮説があるが、それが日本でも証明されたかたちだ。なぜ、人は生まれた日に死を選ぶのか。松林准教授に話を聞いた。
誕生日に自殺や事故で死亡する人は圧倒的に多い
――昨年、「誕生日の自殺で亡くなった方は、ほかの日よりも50%多い」という研究結果が反響を呼びました。この研究を行ったきっかけなどについて、教えてください。
松林哲也氏(以下、松林) 誕生日前後の死亡リスクに関しては、これまで2つの仮説が存在しました。
ひとつ目は「延期」仮説です。これは、誕生日に死亡する人の数は少なくなるという予想で、「誕生日など、自分にとって意味のある記念日を迎えるまでは生き続けようとする」という前提に基づいています。
2つ目は「誕生日ブルー」(birthday blues) 仮説です。これは、誕生日に自殺する人が多くなるという予想で、「記念日を期待していたようなかたちで祝うことができない場合などに孤独感にさいなまれてしまう」という前提です。
この2つの仮説については、アメリカ、イギリス、スイスで大規模なデータを使った研究が行われましたが、いずれも後者を証明する結果となっています。しかし、文化の異なる日本でも同様の傾向があるかについては、明らかになっていませんでした。今回の研究成果は、私の知る限りではアジア文化圏全体でも初めてではないでしょうか。
「誕生日」という概念は、ヨーロッパ文化圏から導入されたものといわれています。日本人は、子どものときはともかく、「成人してからは、あまり誕生日を特別視していないのでは」と考えていたので、「誕生日の自殺はそれほど多くない」と予想していました。それにもかかわらず、このような結果が出たため、大変驚いています。
――この研究の概要について、教えてください。
松林 私と早稲田大学准教授の上田路子氏は、死亡者の誕生日と死亡日の関係に注目し、1974 年から2014 年の厚生労働省の人口動態調査の約207万人のデータを分析しました。
この調査データには、当該期間中に自殺や事故を原因として死亡したすべての人々が含まれます。統計分析の結果、誕生日に自殺や事故で死亡する人数は、ほかの日に死亡する人数と比べて大幅に多いことが明らかになりました。
データ上では、誕生日に死亡した人の数は約8000 人で、誕生日以外の死亡者数の平均が約5700 人であることから、誕生日に死亡した人の数が大幅に多いことがわかります。さらに「ポアソン回帰分析」という統計手法を用いて分析したところ、誕生日の影響がもっとも強く見られるのは自殺。誕生日に自殺で亡くなる人の数は、それ以外の日に亡くなる人の数よりも50%多いのです。