男女の「草食化」に歯止めがかからない――。
2016年の国立社会保障・人口問題研究所調査によると、独身者のうち交際相手がいない人の割合は、男性7割、女性6割と過去最多であることがわかった。また、このうち男女とも約3割が「異性との交際を望んでいない」と回答している。さらに、性交渉の経験がない独身者も男性42%、女性44.2%に上っている。
こうした男女の草食化についてIBJ(日本結婚相談所連盟)所属の婚活カウンセラーに話を聞くと、複数人が次のように口を揃える。
「今の20代、30代世代の場合、他者、とりわけ異性とのコミュニケーションが面倒だと考えていることが要因として挙げられますが、それは遠因にすぎません。直接的な要因は、経済的理由です。つまり、デート代の費用負担が大きいこと。これに尽きます」
1回当たりのデート費用・約8000円という現実
いったいどういうことなのか。まずは民間企業に勤めるビジネスパーソンの給与事情を紐解いてみよう。
16年に発表された国税庁の「民間給与実態統計調査」によると、民間企業に勤務する人の平均給与(年収)は、男性521万円、女性276万円、男女平均では420万円だった。
事業所規模別では女性の場合、5000人以上の事業所では270万円、10人未満では241万円と、約30万円程度の差しか開いていない。しかし、男性の場合は、5000人以上の事業所では677万円、10人未満のそれでは419万円と、約258万円もの差が開いている。
ところが、これら民間企業に勤める男女ビジネスパーソンの小遣い額は、その収入差にかかわらず、あまり差が開かないのが現状だ。実際、昼食代を含むビジネスパーソンの小遣い額は、男性では20代で4万879円、30代で3万6846円、女性では20代で3万8220円、30代で3万2515円だ(新生銀行、16年『サラリーマンのお小遣い調査』より)。
だが、1回当たりのデート代は、自宅デートは別にして、概ね1回当たり8000円といったところだ。Tech総研の調査によると、エンジニア職に就く人に限定されているものの、1回当たりのデート費用は30代前半で8291円という調査結果が出ている。1カ月平均では2万6501円だ。なお、この調査結果によると、20代前半で8237円、20代後半で8277円、30代後半で9156円と、年代別による差は大きくない。
無料参加できるイベントでデート費を倹約
このデート費用を仮に男性が全額負担した場合、30代男性の1カ月の平均小遣い額3万6846円から差し引くと、1万345円しか手元に残らない。これで1カ月を乗り切るためには、1日数百円しか使えないことになる。交際相手を持つには経済的に不安というのも納得だ。
こうした30代ビジネスパーソンのデート事情について、経済ジャーナリストの秋山謙一郎氏は次のように語る。
「ランチやお茶代、ホテル代は『自宅デート』をすることで浮かせられます。しかし、いつも家で“お籠もり”というわけにもいきません。とはいえ、映画を観たりカラオケに行けば費用がかかります。そのため、無料でできるデートを探すことになります」
無料でのデート――。たとえば、これからの季節では、町内会などが主催する盆踊りや、花火大会もある。彼女に浴衣を着せて参加するのも一興だろう。思い出づくりには持ってこいだ。
無料といえば、お堅いばかりで面白味に欠けると思われがちな行政主催イベントもある。ところが、調べてみると意外にもカップルで盛り上がれるものもあった。たとえば、2020年開催の東京オリンピックに絡めたイベントもそのひとつだ。
「バブル期に青春期を過ごした人たちと違って今の若い世代は、ことお金に関しては堅実です。そんな若い世代の彼らが今、デートの場としてチェックしているのが『東京キャラバン』です。時代性を共有できる場に、無料で参加できるとあり注目が高まっています」(同)
少子化・非婚化解消という、行政の隠れた意図があるイベント
東京キャラバンとは、16年に開催されたリオデジャネイロ・オリンピックをきっかけに始まった、演出家の野田秀樹氏が呼びかけている文化ムーブメントだ。その主催元は「東京都歴史文化財団 アーツカウンシル東京」で、いわば東京都の文化事業を行う実働部隊といってもいい。
提唱者の野田氏はもちろん、振付家・ダンサーの近藤良平氏らによるパフォーマンスが無料で観られるとあって、若い世代のみならず、近頃ではアラフィフ、アラフォー世代の、「お金をかけたくない」カップルたちの間でも静かに深く知られつつあるという。今年は8月から京都、東京・八王子、熊本で開催が予定されている。
「ダンスや踊りはもともと求愛を示す行動です。迫力あるプロのパフォーマンスをカップルで観た後……、彼とも燃え上がる予定です。今から楽しみです」(東京キャラバンを観た、ダンス好きのアラフォー女性)
やはり東京都主催だけあって、非婚化のみならず少子化をも意識したイベントなのだろうか。東京キャラバンの関係者に聞いた。
「いや、そういうことは意識していないと思います。ただ、20年の来る東京オリンピックに向けて、文化の力で日本がひとつになれればとの願いを込めています」
そもそも祭りは男女が交わう場として「お上」が「庶民」のために用意したイベント?
こう語る関係者の言葉には、日本がひとつになるために、「まずは男女でひとつになろう」という隠された思惑が透けて見えるというと言い過ぎだろうか。
そもそも、盆踊りや花火大会といった祭りは、男女が交わう場として「お上」が庶民のために設けたものだったという。こうしてみると、どんなに時代が変わろうとも「行政(お上)」と「市民(庶民)」の関係、その本質はあまり変わらないのかもしれない。
はたして、20年の東京オリンピックを前に、少子化・非婚化の解消の道筋は立てられるのだろうか。無料で、こうした場を提供する行政の手腕に期待が寄せられる。
(取材・文=川村洋)
「東京キャラバン」:演出家・野田秀樹氏を提唱者として、公益財団法人東京都歴史文化財団「アーツカウンシル東京」を主催元とする文化ムーブメント。2017年は、8月19日(土)、20日(日)の京都・亀岡でのワークショップを手始めに、京都・世界遺産 二条城で、9月2日(土)、3日(日)。東京・八王子で9月9日(土)、9月10日(日)。熊本で10月9日(月・祝)~13日(金)、15日(日)の開催が決まっている。
詳細は、「東京キャラバン」http://tokyocaravan.jp/まで。