その事例とは、2006年5月に沖縄県で起きた食中毒事件だ。自家栽培したナス入りのスパゲッティを食べたところ、食中毒が発生した。調べてみると、そのナスはチョウセンアサガオに接木をして栽培したもので、スパゲッティの残品や患者の血液からはアトロピンやスコポラミンが検出されたという。
「つまり、チョウセンアサガオに接木することでナスにも毒性物質が蓄積されるということが判明したのです。この中毒事件は、日本初の報告事例として学会誌にも論文が掲載されました」(同)
このほか、あんず、桃、りんご、梨、梅など、バラ科の果実の種にも危険な成分が含まれている。
「これらの果実の種には『アミグダリン』という成分が含まれており、体内で分解されると青酸ガスを発生します。理論上、大量に摂取すれば青酸中毒になり、最悪の場合は死に至ることもあります」(同)
あらゆる食品に中毒症状を引き起こす危険がある
身近な食べ物を口にして中毒になってしまう……そんな事態を防ぐためには、いったいどうすればいいのか。
ぎんなんの場合、対処法はいたってシンプルだ。言い伝えの通りに年齢の数以上は食べないようにすればいいのである。
「特に、体が小さい子どもは少量でも影響を受けやすいので、食べさせるとしてもせいぜい1、2粒に抑えるべきでしょう」(同)
チョウセンアサガオの根の事例も、ゴボウを土の中に埋めて保存することでゴボウの根と間違えてしまう危険があるわけで、よく注意すれば問題ない。
「あんず、桃、りんご、梨、梅などバラ科の果実の種は、一般的にあまり食べることはありませんので、まず心配はないでしょう」(同)
そして、なにより知っておく必要があるのは、どんな食べ物も食べ過ぎれば健康被害を避けられないということ。船山氏は「あらゆる食べ物は中毒症状を引き起こす危険性があるということを認識すべき」と警鐘を鳴らす。
「どんな食べ物でも、大量に食べることで中毒症状を引き起こす可能性は否定できません。『多く食らわば米の飯さえ毒』ということわざがあるように、量を抑えてほどほどに食べる分には、これまで私たちが食べてきた食べ物を過度に心配する必要はないと思います」(同)
健康意識の高まりやダイエットブームによって、世の中には食べることで「痩せられる」「健康になる」とうたう商品があふれている。
しかし、カフェインの例でもわかるように、そうした宣伝文句を真に受けて摂取しすぎれば、場合によっては中毒死という落とし穴が待っている。どんなものでも「ほどほど」が一番なのだ。
(文=福田晃広/清談社)