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渡辺雄二「食にまつわるエトセトラ」

一部の市販おせち料理は危険? 黄金色の数の子や真っ赤な酢だこ、発がん性の指摘も

文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト
一部の市販おせち料理は危険? 黄金色の数の子や真っ赤な酢だこ、発がん性の指摘もの画像1「Thinkstock」より

 いよいよお正月が近づいてきて、「おせち料理をどうしようか」と考えている人も多いと思います。「お正月くらいは」ということで、豪華なおせち料理セットを頼む人もいるでしょうし、スーパーマーケットなどで売られている食材を利用して、おせち料理を自分なりに盛り付けようという人もいると思います。

 私も後者の一人で、毎年市販の数の子や黒豆などを買って、お皿に盛り付けています。ただし、その際に注意しなければならないことがあります。それは、危険性の高い添加物が使われている製品があるので、それらは避けるべきということです。

 まず気をつけなければならないのは、数の子です。数の子といえば、子孫繁栄を願う縁起のいい食べ物としておせち料理に欠かせないもので、黒豆や田作りとともに「祝い肴三種」のひとつに数えられます。しかし、ひとつ問題があります。それは、数の子を漂白して、いわゆる「黄金色」にするために、発がん性のある添加物、過酸化水素が使われていることです。

 数の子はニシンの卵ですが、それは本来薄茶色をしていて、血が付いていることもあったりして、どう見てもきれいではありません。そこで、漂白してきれいにするために古くから過酸化水素が使われていました。過酸化水素の漂白作用は強力で、見た目の悪い数の子を「黄金色」にすることができたからです。

 ところが1980年1月、厚生省(現厚生労働省)は「過酸化水素に発がん性のあることがわかったので、食品には可能な限り使用しないように」という内容の通達を食品加工業者に出しました。同省の助成金によるマウスを使った実験で、過酸化水素によって十二指腸にがんの発生が認められたためです。

 これに対して数の子の加工業者は激怒したといいます。数の子をきれいな色にするためには、過酸化水素がどうしても必要だったからです。一部の業者は、この通達で被った損害を賠償するように日本政府に迫りました。これに驚いた厚生省は、「過酸化水素を使ってもいいが、製品に残存しないように」という内容に通達を変更しました。

 ただし、過酸化水素が残存しているかどうかを調べるのは非常に難しく、結局のところ事実上の使用禁止となりました。

 その後、数の子に使われた過酸化水素を除去する技術の研究が始まり、1981年にカタラーゼという酵素を使って分解して除去する方法が開発されました。そこで厚生省は、「最終食品の完成前に分解または除去すること」という条件付きで使用を認めました。

 しかし、実際には過酸化水素を完全に除去することはなかなか難しいのです。私が過去に東京都千葉県で購入した数の子4製品を一般財団法人・日本食品分析センターで調べてもらったところ、2製品から過酸化水素が0.2ppm検出されことがありました。

 現在も過酸化水素を除去する方法は変わらないので、市販の数の子には過酸化水素が残留している心配があるのです。特に「黄金色」をしている塩数の子は要注意といえます。

 私はこれまでスーパーなどで売られている数の子を何度も試食してきましたが、時々薬っぽいような、変な味や違和感を覚えることがあります。それは、本来の数の子の味とはまったく違うもので、おそらく過酸化水素が残留していると考えられます。

 したがって、市販の数の子を口に入れて、同じように変な味や違和感を覚えた場合は、食べないようにしたほうがよいでしょう。ちなみに、しょう油などで味付けされた数の子は、「黄金色」にする必要がないため、過酸化水素が使われていないケースもあるので、そちらの製品のほうが無難といえます。

酢だこ

 海産物のなかで、数の子と同様におせち料理によく使われるのが、酢だこです。紅白で縁起がいいというのが、使われる理由です。しかし、その赤い色が問題なのです。

 通常、市販の酢だこは鮮やかな赤い色をしていますが、それは合成着色料でタール色素の一種である赤色102号によるものです。しかし、タール色素はいずれも危険性が高いのです。

 赤色102号は、それを3%含むえさをラットに1年以上与えた実験では、次第に食欲がなくなって体重が減りました。また、アメリカで発がん性の疑いが強いという理由で使用が禁止された赤色2号と化学構造が非常によく似ているため、発がん性の疑いがあります。さらに、皮膚科医の間でじんましんを引き起こす添加物として警戒されています。

 酢だこは、おせち料理に欠かせないというほどではないので、買わないようにしたほうがよいでしょう。

 さらに、祝い肴三種のひとつである黒豆にも注意しなければならない点があります。それは、市販の黒豆の中には、添加物の硫酸第一鉄を使っている製品があることです。原材料名に「硫酸第一鉄」と表示されているのでわかります。

 硫酸第一鉄は黒豆の黒い色を際立たせるために添加されていますが、毒性が強く、ラットに体重1kg当たり0.319gを経口投与したところ、半数が死亡しました。ヒト推定致死量は20~30gです。

これまでに、硫酸第一鉄を摂取して人が死亡した例があり、この際には激しい腸管刺激、虚脱、チアノーゼ(皮膚や粘膜が青くなること)が見られました。黒豆を加工する際に加えられる量は0.02~0.03%と少量ですが、できれば摂取しないようにしたほうがよいでしょう。

 スーパーなどには、フジッコの「おまめさん 北海道黒豆」や「おまめさん 丹波黒」などのように硫酸第一鉄が使われていない製品が売られています。重曹(炭酸水素ナトリウム)が使われていますが、これは毒性が弱く、添加物として微量使われている分には問題ないと考えられるので、こうした製品を選ぶとよいと思います。

 それから最近では、ローストビーフをおせち料理に使う人も増えてきましたが、その代役として使えるのが、パストラミビーフです。これは、牛肉を燻製にして、保存性を高めたものです。

 しかし、市販のパストラミビーフには発色剤の亜硝酸Na(ナトリウム)が使われているので要注意です。亜硝酸Naは、ハムやソーセージにも使われているもので、毒性が強く、さらに肉類に含まれるアミンという物質と結合して、発がん性のあるニトロソアミン類に変化します。

 WHO(世界保健機関)の外部組織であるIARC(国際がん研究機関)は2015年10月、「ハムやソーセージなどの加工肉を1日に50g食べると、結腸がんや直腸がんになるリスクが18%高まる」と発表しました。これは、ニトロソアミン類が原因していると考えられます。

 したがって、パストラミビーフは避けたほうがよいでしょう。ちなみに、ローストビーフの場合、牛肉を蒸し焼きにしたもので、市販の製品でも通常亜硝酸Naは使われていないので、こちらを選んだほうが無難です。

 市販の食材を買い求めて、自分なりにおせち料理を盛り付けるのは、なかなか楽しいものです。また、おせち料理セットを買うよりも経済的です。ただその際には、できるだけ危険性の高い添加物を含まない食材を選ぶように心がけてください。
(文=渡辺雄二/科学ジャーナリスト)

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

渡辺雄二/科学ジャーナリスト

1954年9月生まれ。栃木県宇都宮市出身。千葉大学工学部合成化学科卒。消費生活問題紙の記者を経て、82年からフリーの科学ジャーナリストとなる。全国各地で講演も行っている

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