日本のビールも世界基準に一歩近づいた
今回、麦芽比率変更や使用できる副原料が増えたことで、ビール業界全体の盛り上がりが期待できると富江氏は語る。
「この改正でもっとも重要なのは、副原料が追加されたこと。これによって、今回試飲した4品のように、多彩な味わいのビールがつくられていくと思われます。実際、ヤッホーブルーイングがかつお節を使用した『SORRY UMAMI IPA』を発売するなど、大手以外のメーカーも新しい定義にあてはまるビールを造っています。『多様化』がキーワードとなっている現代で、こういった個性的なビールが増えていき、ビールというひとつのカテゴリーのなかでもさまざまな種類が選べるというのは、消費者にとって大きなメリットでしょう。
また、これまでは“キンキンに冷えたビールをゴクゴクと飲む”という一辺倒な楽しみ方ばかりでした。ですが、副原料として果物や香辛料の追加が認められたことにより、“フレーバーを楽しみながら飲む”という新たなビールの魅力に気づける商品が、発泡酒ではなくビールとして開発できるようになったわけです。
個人的には、これまでビールの味わいの表現に、“キレ”や“コク”といった抽象的で意味がわかりにくい言葉ばかり使われてきたことが不満でした。もっと具体的な言葉で味わいを表現すべきだと思っていましたが、今回の改正から追加された副原料を使ったビールは、オレンジピールを使っていれば“オレンジの風味”と表現できるように、その表現が具体的にわかりやすくなるでしょう。これによってビールを飲む人口の広がりにも期待できます」(同)
ただし、富江氏は今回の改正について、不十分と感じている部分もあるという。
「副原料が追加されたとはいえ、今回追加された副原料は麦芽の5%以内しか使えないため、そういう意味でまだまだ不十分な改定だと思っています。たとえば、オレンジピールを風味付けに使うには5%は十分な量ですが、フルーツビールとして果物をまるごと使おうとすると5%では到底足りません。
世界ではもっと自由にビールがつくられているため、現時点では物足りなさを感じてしまうのが正直なところです。ただ、今回試飲した4種のようなビールは世界的にはもともとビールと定義されていたものなので、今回の改正で世界の基準にようやく日本が近づいたといった認識。2026年までにビール類の酒税が一本化されるため、その第一歩としては一定の評価ができますし、日本のビールシーンも世界基準の自由なビールに一歩近づいたと言えるでしょう」(同)
今回の定義改正は、ビールの種類を多様化させ、新たな楽しみ方も提案するものであるが、副原料が5%以内になっていることで、まだまだ発泡酒を名乗らなければならない商品も多いという。
ただし、富江氏も解説しているように、今回の定義改正はビール類の酒税一本化へ向けたファーストステップ。今後もどのように「ビール」の定義が変更していくのか、そしてそれによりビール業界の勢力図も変わっていくのか、業界の変革に要注目だ。
(文=A4studio)