「この薬は副作用があるのですか?」
薬剤師として、患者さんからこれは必ずと言っていいほど聞かれる質問です。すべての薬に副作用があるのですが、だからといって「あります」と答えてしまうと、言われた方は薬を飲まなくなってしまう恐れがあります。副作用がないように思える「水」でさえ、量を間違えれば人は死にます。だから「溺死」があり、2015年には4804人の方が家庭内浴槽で亡くなっています。川やプールでも溺死はありますから、もっと多くの方が「水」で死ぬのです。それでも水が安全だと人々が思っているのは、「適量」を守れば水で死なないことを経験を通じてわかっているからです。
薬の場合、「適量」というのはどれくらいなのでしょうか?
それを決めるために動物実験と臨床試験があります。動物実験では、どの量を入れたら薬効を発揮するか? どの量を入れたら中毒症状が起こるか? さらに、どの量を入れたら死ぬか? ということを調べます。薬効を発揮する量と中毒症状が起こる量が大きく離れていると、「合格」として次の臨床試験に進むことができます。
なかには薬効を発揮する量と中毒症状が起こる量が近い薬も「合格」とされることがあります。多くの動物たちには薬効を発揮しているものの、同じ量で一部の動物たちに中毒症状が出てしまうこともあります。しかし、それでも「合格」とされるのは、その薬効がどうしても治療上必要だからです。有名なところでは、「テオフィリン」(喘息治療薬)、「ジゴキシン」(心不全治療薬)、「ワルファリン」(血栓塞栓症治療薬)などがあります。
臨床試験の内容とは?
臨床試験とは、ヒトを対象とした「人体実験」です。安全に試験をするためには、動物実験で「合格」したものでなくてはなりません。まず「ボランティア」と呼ばれる健康成人男性10名程度に薬を飲んでもらい、「用法用量」を決めていきます。そして次は少人数の患者さんに、この「用法用量」で効果が出ているかを確認します。効果がより出る最小限の量を「用法用量」として決めます。さらに患者さんの人数を増やした試験をして、多くのデータを取ります。有効率、副作用発生率、その副作用にどんなものがあったのか、などです。ここでいう副作用というのは、薬効以外の症状すべてをいいます。有効率が低かったり、副作用発生率が高かったりしたものは、薬として発売できません。
発売されているすべての薬では、「用法用量」が決められています。この通り使うと薬効が最大限に発揮され、副作用が少なくてすむようになっています。これが薬の「適量」ということになります。
前述のとおり、薬の副作用とは薬効以外の症状すべてを指すので、数が多いですし、患者さんはどんな副作用があるか不安になってしまうのです。