職場のデスクワーク、電車やバスの移動、帰宅後の食事やテレビを見ているときなど、日々の生活に占める「座っている時間」は想像以上に長い。
特に日本人は諸外国に比べて座っている時間が長いといわれ、『「座りすぎ」が寿命を縮める』(大修館書店)の著者で早稲田大学スポーツ科学学術院教授の岡浩一朗氏は「日本のビジネスパーソンは座りすぎだ」と指摘する。
そう聞いても、「座ることの何がいけないのか?」と思うかもしれない。しかし、岡氏によれば、座っている時間が長すぎると仕事の生産性が低下する上に健康リスクも高まるなど、さまざまな弊害が生じるという。
日本人の「座っている時間」は1日約7時間
まず、「座っている」とはどのような状態なのかを整理しよう。岡氏によると、座りすぎの研究分野では座っている状態のことを「座位行動」というそうだ。
この座位行動とは、睡眠時を除く「座っている」「寝転んでいる」のいずれかの状態のことで、そのエネルギー消費量は1.5メッツ以下。メッツ(METs)とは身体活動の強度を表す単位で、一般的な速度で歩く場合はおよそ3メッツとなる。一方、デスクワークや読書などで「座っている」「寝転んでいる」状態は1.5メッツ以下だという。
では、「日本のビジネスパーソンが座りすぎ」というのは本当なのか。
「何時間以上座っていると『座りすぎ』になるのかは、厳密に定義されているわけではありません。しかし、この10年間で座りすぎの研究は各国で進んでいて、オーストラリアのシドニー大学の研究者たちが世界20カ国の座位時間を調査し、その結果を2011年に公表していますが、それによると『日本人の平日の総座位時間は約7時間』。これは、20カ国のなかでもっとも長いです」(岡氏)
しかも、この約7時間はあくまでも日本人の中央値にすぎない。現代のビジネスパーソンは、デスクワーク中に何か連絡事項があっても、昔のように立ち上がってその人の席まで行かず、すべてパソコン上で行うのが一般的だ。
つまり、ただでさえ座りすぎの日本人のなかでも、ビジネスパーソンはさらに座っている時間が長いといえるわけだ。さらに、そこへ電車やクルマでの移動、食事、自宅でゴロゴロしている時間などを加えると、1日のうちのかなりの時間を座って過ごしていることになる。
11時間以上座っている人は死亡率が1.4倍?
それでは、座りすぎのリスクとは具体的にどのようなものなのか。まず挙げられるのは、仕事でもっとも重要な生産性が低下することだという。
「私たちの研究室では、20~59歳の社会人2500人(男女比はおよそ半々)を調査し、座りすぎとそうでないグループの比較研究を2017年に発表しています。そこでは、座りすぎと生産性やワーク・エンゲイジメントの関係について顕著な結果が出ています。20~30代で座位時間が長いグループのうち、『ここ1週間の仕事のパフォーマンスが低かった』と答えた人の割合が、座位時間が短いグループに比べて約1.4倍も高かったのです」(同)