電車内は不特定多数の他人と接する場所で、そのため他人の振る舞いがイライラの原因になることも多い。なかでもやっかいなのが、電車のドア付近に固まる人たちだ。
乗車時に立ち止まられるとドア付近の混雑に拍車がかかり、降車時にドア付近から動かないと降りる人の邪魔になり、いずれも事故につながる危険性がある。
ところが、「中ほどまで詰めてください」と車内アナウンスがあるのに、頑としてドア付近から動かない人をよく目にする。なぜ、ドア付近で立ち止まる人はいなくならないのか。
電車内でイライラするのは心に余裕がない証拠?
「ドア付近で立ち止まる理由は人によってさまざまです」と言うのは、マナー評論家として企業などでマナーコンサルティングも行っている西出ひろ子さんだ。
「ほかの人のことを思えば、ドア付近で立ち止まらず、中に詰めるのが一般的にはマナーといわれます。しかし、マナーはお互いさま。相手の立場や状況を考えてみることもマナーです。次の駅で降車したいからドア付近に立ち止まる人もいれば、身体的な事情で乗降に不安があるから、そうせざるを得ない人もいるかもしれません。もちろん、そうでない人はドア付近で立ち止まらず奥に詰めるのがマナーといえます。
しかし、本来のマナーは、ひとつの事象について『良い、悪い』を決めつけるのではなく、相手の立場に立ってみて、いつもの自分とは異なる視点から物事を考えてみることも、マナーのひとつといえます。いずれにせよ、それぞれ事情があり、『中まで詰めないからマナーが悪い』とは一概にいえないのです」(西出さん)
もしそういう場面に遭遇しても、「次の駅で降りる人が多いんだろうな」と受け止め、自分は混雑する車内を縫って中ほどまで進むのが「イライラしないためのコツです」(同)という。
その上で、西出さんは「ストレスフルなビジネスパーソンは、電車内で余裕のある振る舞いを忘れがちになる」と指摘する。
「特に男性の場合、会社では日々の業務に追われ、家庭では夫や父としての役割をまっとうしようと自分を追い込む人が多い。『電車の中まで気を使っていられない』というのが正直なところかもしれません。まわりの人を押しのけて乗降する人や足を開いて座る人も、そうした態度は電車内だけで、普段の生活ではきちんとしている人もいらっしゃるのではないでしょうか」(同)
つまり、「ドア付近で立ち止まる人」にイライラすること自体、心に余裕がなくなってしまっているサインかもしれないわけだ。
「ドア付近で立ち止まる相手にイライラしたり悪態をついたりしたところで、メリットはゼロ。そこから、何もプラスになることは生まれません。それよりも、自分自身が基本的な気遣いができているかどうかに重きをおくほうが賢明です。『マナーを守るのは他者のため』ということもありますが、最終的には『自分も心地よく過ごすため』でもあります。マナーは、お互いをプラスにするためにあるのです。自分の感情をほんの少し相手に譲って差し上げることで、その場も自分自身もプラスになるのです」(同)
電車内でイライラすることが多いなら、それは「想像以上にストレスがたまっている証拠」と認識し、「日常生活を見直すことが必要」と西出さんは言う。