今年は、風疹や麻疹の感染者増加が大きなニュースとなったが、その陰で「百日咳」の感染者数が増加し続けている。2018年1月から39週(9月30日)までの百日咳の報告数は6941例。この数字が多いか少ないかは、正直判断しかねるが、医療現場で働く筆者の実感としては、「百日咳患者が増えている」という印象である。そして、「風邪だと思って治療をしていたが、百日咳だった」という患者が少なくないのも現実である。
百日咳の症状
百日咳は、百日咳菌に感染することよって起こる。潜伏期間は7~10日程度であり、その症状は、「カタル期」という風邪に似た症状が約2週間続くことに始まり、次に「痙咳期」という咳き込みが2~3週間持続する期間がある。痙咳期には、“特徴ある咳”で嘔吐を伴うこともある。その咳とは、コンコンと連続する短い咳、息を吸い込む時のヒューという笛声、連続的に短い咳が出るスタッカート、咳嗽発作が繰り返すレプリーゼなどである。その後、回復期となり、全経過はおおむね2~3カ月で終息に向かう。微熱を伴うこともあるが、発熱がないケースも多いため、医療機関への受診が遅れる傾向にあるようだ。
百日咳の治療
成人の場合は重症化することは少ないが、ワクチン接種前の乳幼児が感染すると重症化する可能性が高い。治療法は、マクロライド系抗生物質の服用によって3~6週間ほどで落ち着くが、カタル期の服用が有効であるため、早期の診断が重要となる。しかしながら、完全に治癒するまでには10週間前後かかるケースが多い。周囲への感染拡大を防ぐためにも、咳が長引いていると感じたら速やかに医療機関を受診し、医師に相談してほしい。
予防
百日咳の主な感染経路は、咳やくしゃみで飛ばされた菌による「飛沫感染」であり、患者や周囲の人がマスクを着用することにより、ある程度の予防効果が期待できる。現在は、生後3~90カ月の間に4回、「百日咳・ジフテリア・不活化ポリオ・破傷風」が混合された4種混合(DPT-IPV)ワクチンによる予防接種を行う定期接種が行われるが、予防接種の効果は5~10年で減弱・消失するケースも多いため、成人での発症や、成人から乳幼児への感染が増加していると思われる。
見過ごされ感染
百日咳は、2度目以降の感染は初感染に比べ症状も軽く、見すごされる傾向にある。しかし、周囲への感染拡大のリスクは変わらずあるため、咳が1週間以上続いた場合は、早めに医療機関を受診してほしい。
感染症に関しては、「自分は大丈夫」という気持ちは禁物である。まずは、手洗い・うがいを日々の習慣にすることが大切だ。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)