一年でいちばん冷え込みが厳しいこの季節、あなたの歩数計アプリの1日平均は何歩を刻んでいるだろうか。実は、健康増進を図る日常生活における歩数の目安がある。
「健康日本21(第二次)」分析評価事業によれば、2010年時点の平均は、20~64歳の男性が7841歩、女性が6883歩で、今から3年後の2022年の目標値として男性9000歩、女性8500歩と設定している。
これに習い、仮に「自分はあと1000歩伸ばせば合格」ならば、距離にして1日およそ600~700メートル、時間にして約10分程度、歩く機会を増やせば理想的な健康生活を達成できる計算となる。
実際、この「わずか10分」は数多くの健康記事で目にするものだ。「ウォーキングやヨガなどの10分間運動で記憶力や認知能力がアップ」、もう5分足して「1日15分のウォーキングで寿命が3年延長!」など、医学誌に掲載された知見は枚挙にいとまがない。
ウォーキングなどで「脳の若返り」に期待
今回紹介する運動効果の新知見も、米デューク大学医学部教授のジェームス・ブルーメンソル氏らが臨床神経学分野における公式学会誌「Neurology」オンライン版に寄稿し、18年12月19日付で掲載されたものだ。この論文によれば、記憶力や思考力に衰えを感じたら、ウォーキングなどの「適度な運動」を半年間ほど継続することで「脳の若返り」が期待できる可能性が高いことが判明した。
ブルーメンソル氏らの研究班は、事前の客観的な検査で記憶力や思考力の低下が認められた55歳以上の男女160人(平均65歳)を対象に実験を行った。彼らは、アルツハイマー病などの認知症こそ見られないものの、検査判定による「実行機能」は、いずれも90代前半に相当していた。
研究に際しては、そんな160名の被験者たち(=いずれも高血圧などの心血管リスク因子を有する)を、次の4グループに分け、半年後の効果を探った。
(1)適度な有酸素運動(=10分間のウォーミングアップ+35分間のウォーキングかジョギングか自転車こぎ運動を週3回)を行う。
(2)高血圧予防の食事療法であるDASH食(肉類や飽和脂肪の多い乳製品などを控え、野菜、果物、全粒穀物などを多く摂取する)を行う。
(3)(1)の運動に加えて(2)のDASH食も行う。
(4)健康指導のみを受ける。
“考えて行動する”機能がアップした
その結果、目の前の状況を把握したり、物事を整理してから考えて行動する「実行機能」に関して、グループごとに6カ月で効果の違いが読み取れた。
もっとも機能アップが認められたのは、やはり(3)グループだった。DASH食のみの(2)グループは半年後、「実行機能」に関する優位な変化は見られなかった。さらに、健康指導しか受けていない(4)グループは同機能が「低下し続けている」ことも判明した。
この結果を受けて「健康的な生活習慣は脳の老化を防止する」という一般説を「さらに裏付けるものだと思う」と語る専門家が多い。「しかも、運動を始めるのに遅すぎることはない」と補足する米アルツハイマー病協会のキース・ファーゴ氏も「適度な運動=脳の老化防止」論者のひとりだ。
「記憶作業から少し時間をおいて」が効果的
ファーゴ氏によれば、運動によって血流が改善し、脳への酸素供給量が増えることが「認知機能の改善につながっているのではないか」との見方が濃厚だ。同じく運動が脳の働きを活発化、記憶パフォーマンスを向上させるとの立場から、「運動するタイミングは記憶作業の直後よりも、少し時間をおいてからのほうが効果的である」との知見を示しているのはオランダ・ラドバウド大学医療センタードンデルス脳研究所の研究者たちだ。
今年に入ってからも「市販の薬で記憶が蘇る」「神経伝達物質がカギ」「認知症に光」と、東京大学、北海道大学、京都大学などの研究チームの発表論文が話題を呼んだばかり。しかし、研究の成果が実を結ぶのは先の先だ。
まずは、適度なウォーキングを週3回、これで認知機能がアップして作業効率が上がるなら、トライする価値があるのは間違いない。毎日ではなく「週3回」、これなら挫折せず続けられそうではないか。
(文=ヘルスプレス編集部)