筆者は多様なメディアから取材や出演依頼を受ける。その際、肉食を薦めるシニアの栄養問題の専門家として紹介されることが多い。20年以上も前からシニア世代に肉食の推奨をしてきた者にとっては、最近の肉食ブームは喜ばしい限りだ。科学的背景がしっかりあるため信念をもって言い続けてきたが、当初は「なんということを言う奴だ!」と言われる始末で、世間は受け入れがたい雰囲気だった。
しかし近頃は、さらに自信を深め肉食を推奨している。その理由を「老化を遅らせる食生活指針」の項目2「動物性たんぱく質をしっかり摂る」、同3「魚に偏らず肉をしっかり食べる」の解説と絡めながらお話ししようと思う。
一般的には、体には魚介類が良く、肉類はダメという健康パラダイムが定着してしまっているように思う。医師や管理栄養士などの医療関係者の多くは、なぜか「肉類を食べると生活習慣病のリスクが高くなるので避けたほうがいい」とステレオタイプでアドバイスする。以前、筆者は循環器疾患予防が専門の医療関係者に対して「肉を食べることがどうして循環器疾患のリスクを高めるのでしょう?」と質問したことがあるが、納得のいく答えは返ってこなかった。
情報源をたどってみると、理屈はこうだ。「肉類を多く食べる欧米諸国では脂肪も同時に多く摂ってしまうため、循環器疾患が多発傾向にある。日本でもこの現状に鑑み肉食を抑制すべきである」。筆者には稚拙な推測に基づいた思い込みとしか考えられない。
さて、本当のところはどうなのか。
肉類の摂取水準が世界トップレベルのアメリカ(2位)やオーストラリア(3位)と日本とで、肉類消費量をもとに比較してみよう(ちなみに1位はルクセンブルク)。データソースは2007年国連食糧農業機関(FAO)のレポートである。摂取量と消費量は異なるが、国民の食事習慣として定着している摂取量傾向を比較するには十分な変数だ。アメリカは年間125.4kg、オーストラリアは121.2kg、そして日本は46.2kgで80位である。1日当たりにすると米国が342g、日本は127gである。世界で唯一国民の栄養摂取量を毎年定期的に把握している日本の国民健康栄養調査によると、2017年の肉類摂取量の総平均は98.5gである。