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熊谷修「間違いだらけの健康づくり」

「肉を食べる=体に悪い」論のデタラメさ…高齢者、肉食増加で健康寿命が伸長

文=熊谷修/一般社団法人全国食支援活動協力会 理事
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 このように、日本人の肉類消費量はアメリカの37%にすぎない。アメリカ連邦政府が推奨する肉類摂取量は1日当たり5~6.5オンス(約142~184g)だ。日本の平均値よりかなり多い。日本の心臓病の年齢調整死亡率はアメリカと比べ雲泥の差で低い。動物性脂肪の摂取水準も日本はアメリカの半分(FAOの2003年レポート)だ。心臓病予防のためにと肉類を食べることにステレオタイプで警鐘を鳴らすことの根拠はない。

老化そのもの”を遅らせる

 超高齢社会とは、65歳以上が人口の21%以上を占める社会をいう。このような社会では老化そのものが多くの病気を引き起こす原因になり、同時に要介護の原因にもなる点に着目することが、とても重要になる。多くの健康問題を引き起こす“老化そのもの”を遅らせ、健康寿命を伸長することが、健康施策の最優先課題になる。

 このような時代の潮流のなか、肉類は悪者どころかシニアの老化を遅らせるには、なくてはならない食品であることがわかってきた。シニアになると食べる食事の容量が徐々に減り出す。これは老化によるところが大きい。「年を取ったら動かなくなるので、栄養量は少なくていい」と考えている方々がとても多い。事実、確かに活動量は減る。

 ところが、年を取っても自立して活動的な生活を送るのに必要なエネルギーは、さほど減ることはない。同じ距離の歩行移動でも70歳時より80歳時のほうが多くのエネルギーが必要になる。これは老化という変化が、車でいうと燃費が悪くなる身体変化だからだ。

 そのためシニア世代は食べる容量が減るなか、コンパクトな量でもしっかりエネルギーを発出してくれる食品が必要になる。それには肉類の脂身が欠かせない。肉の脂身は飽和脂肪酸で、エネルギー転換効率が油脂のなかでもっとも優れている。一方、植物油や魚油に含まれる不飽和脂肪酸はエネルギーにはなりにくい。さらに肉類は良質なたんぱく質食品である。

 何度も述べたとおり、老化はたんぱく質組織である筋肉と骨格が減少・衰退して、体の栄養状態が低下する変化である。良質なたんぱく質の摂取は、なくてはならない。摂取したたんぱく質を筋肉と骨格に同化するには、持続的なエネルギー摂取も絶対条件となる。このエネルギー源とたんぱく質源の両者の栄養環境を同時提供してくれるのが肉類である。

 最近多くのシニアから「肉を忌避せず食べるようにしたら体調がよくなった」と感謝の言葉をいただく機会が増えてきた。体が肉を求めていたことを実感したのだと思う。この10年間(2006~2016年)の肉類摂取量の増加率は50代以下の年齢層より60代、70代以上の増加率のほうが大きい(2016年国民健康栄養調査より)。腑に落ちる状況証拠である。超高齢社会では、肉食がブームになるしかるべき理由があるのだ。肉を食べると老化が遅くなるのである。
(文=熊谷修/一般社団法人全国食支援活動協力会 理事)

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

熊谷修/博士(学術)、一般社団法人全国食支援活動協力会理事

1956年宮崎県生まれ。人間総合科学大学教授。学術博士。1979年東京農業大学卒業。地域住民の生活習慣病予防対策の研究・実践活動を経て、高齢社会の健康施策の開発のため東京都老人総合研究所(現東京都健康長寿医療センター研究所)へ。わが国最初の「老化を遅らせる食生活指針」を発表し、シニアの栄養改善の科学的意義を解明。介護予防のための栄養改善プログラムの第一人者である。東京都健康長寿医療センター研究所協力研究員、介護予防市町村モデル事業支援委員会委員を歴任

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