2017年度の熱中症による死亡者数は635人。これに対し凍死者数は、1095人。意外と知られていないかもしれないが、凍死による死亡は、熱中症による死亡を大きく上回るのである。夏なら酔いつぶれ外で寝入ってしまっても笑い話になることが、冬には笑い事ではなく死に至る危険性が大きい。
一般に低体温症による死を凍死と呼ぶ。低体温症というのは,医学的には直腸など体の深部の体温が35度以下になった状態をいう。35度でただちに死に至ることはないが、低体温が進むと体温を維持するために震えと皮膚の血管の収縮が起きる。体温が32度以下になると震えは止まり、筋肉の硬直と脳の活動低下が起きる。30度以下では、呼吸、脈拍、血圧の低下がみられ、28度以下になると昏睡状態、25度以下で仮死状態となり、20度で死に至る。
これらはあくまで目安であり、体調や年齢、持病や飲酒などの危険因子の有無によっては、低体温がそれほど進まずとも突然死を招くこともあるため、35度以下の低体温にならないようにすべきだろう。
凍死といえば、登山やスキーなどで遭難し極寒の中、長時間、遭難した場合に起きると思われるかもしれないが、日本救急医学会の行った調査では、屋内外で凍死が多いことが報告されている。調査報告の中で注目したいのが、酩酊状態から凍死に至ったとみられるケースが多かったという点だ。12~2月は、忘年会や新年会で飲酒の機会も増えることが影響した結果だと推測される。また、屋外ばかりでなく屋内で凍死に至るケースもあり、酩酊状態のカラダの変化は、死を招く危険が何倍にも大きくなることがわかる。
アルコールが身体に入ると胃と小腸から吸収され、肝臓へと運ばれ分解される。飲酒の量が進むと、どんどん運ばれてくるアルコールをすぐに分解することはできず、分解されなかったアルコールは心臓へと運ばれるため、動悸を引き起こす。さらに、脳にも運ばれ、脳を麻痺させ「酔った状態」となる。
酔いの程度は、血液の中のアルコール濃度によって定義できる。「そう快期」「ほろ酔い期」は血中濃度が0.1%程度までを指し、一般に「楽しいお酒」といえるのはそう快期までとされる。さらに飲酒が進み、血中濃度が0.31%以上に達すると「酩酊初期」となり、意識の混濁、支離滅裂な会話などが見られる。酩酊期が進むと身体機能が低下し、体温の低下も現れる。ひどい場合には麻痺が脳の広範囲に広がり、呼吸中枢(延髄)も抑制された状態となる。
凍死の危険性がある気温は11度以下といわれるが、酩酊状態では気温15~19度でも凍死に至ったケースもあるようだ。酩酊期で低体温となり、神経も抑制状態となるうえに気温も低ければ、容易に危険な状態を招くことが推測できる。屋内外問わず冬の凍死が起きている理由のひとつが飲酒であることは否定できない。この時季、酔った後に暖をとることなくうっかりと寝入ってしまうことがないよう十分に注意してほしい。
(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)