がん治療が画期的に進歩した過去40年間、がん死亡者が3倍に激増の事実が示す意味
10月、ノーベル医学・生理学賞が京都大学特別教授の本庶佑博士に授与された。がん細胞への免疫(攻撃)を抑えるPD-1(リンパ球のT細胞の表面に存在)というたんぱく質を発見し、PD-1に対する抗体を作ってがん患者に投与することによって、ブレーキ役を外すことでがん細胞への免疫力を高める治療薬「オプジーボ」(免疫チェックポイント阻害薬)の開発につなげたと評価された。
これで日本人の受賞は、カズオ・イシグロ氏ら外国籍を含めて27人、医学・生理学賞は5人となった。
1965(昭和40)年、ノーベル物理学賞を受賞された朝永振一郎博士までは、日本人の受賞者は1949(昭和24)年の湯川秀樹博士(物理学)しかいなかったので、我々の幼少期は、湯川博士は子どもでも知っている英雄であった。今や27人もの日本人がノーベル賞を受賞されたのだから、隔世の感がある。
「オプジーボ」の先進性と欠点
これまでのがん治療は「外科(手術)療法」「放射線療法」「抗がん剤療法」が三大療法で、いずれも「がん」という病気を「切り取る」「焼却する」「壊滅させる」方法で、4番目として「免疫療法」が存在していた。従来の「がん免疫療法」は「免疫細胞(白血球)の攻撃力を活性化すること」に研究の主眼が置かれ、この100年間、あまり進展があったとはいえなかった。
本庶博士は「免疫細胞にとってブレーキ役をするPD-1の働きを抑え、免疫細胞のがんへの攻撃を増強させる」という画期的な治療法を発見されたわけだ。一般の抗がん剤のように正常な細胞を傷害することもなく、あらゆるがんに対応できる「オプジーボ」などの「免疫チェックポイント阻害薬」は「奇跡の薬」とも呼ばれ、がん治療に「第4の道」を拓いた、と絶賛されている。
一般の抗がん剤のように、嘔吐、脱毛、白血球減少などの副作用もなく、10%くらいの人に「間質性肺炎」や「肝機能障害」や「甲状腺機能低下」などが報告されているのみだという。
「森喜朗元首相の肺がんの進行を抑えた」ことでも有名になった「オプジーボ」であるが、2014年7月に認可され、はじめは皮膚がんの「悪性黒色腫」のみへの適応であった。
その後「肺がん」「胃がん」「頭頸部がん」「非小細胞肺がん」など7つのがんにまで適用が広がり、これまでに約2万5000人が投与を受けたという。現在、発売元の小野薬品では50種以上のがんで臨床実験をしているとのこと。
「夢の新薬」ではあるが、がん患者全員を完治させるというものではなく、治療を受けたがん患者の20~30%で「がんの縮小」または「がんが拡大せず」という効果が見られたという程度の効果である。つまり、がん患者によっては、まったく効かない人もいるわけだ。しかし、これまでの抗がん剤や免疫治療剤に比べると、副作用も少なく、治療効果も高いのだから「将来多くのがん患者の標準治療になりうる」という期待が高まっている。