がん治療が画期的に進歩した過去40年間、がん死亡者が3倍に激増の事実が示す意味
「オプジーボ」の現段階での最大の欠点は、超高価なことだ。
「体重1kg当たり3mgを2週間に1回点滴注射(1回当たり平均240mg)」というのが標準的なものである。発売当初、1瓶(100mg入り)73万円、その後、2度の値下げで今は27万8000円、2018年11月には「17万円」まで値段が下げられる。当初は1人のがん患者に1年使うと「3500万円」もかかった。1瓶「17万円」に下がっても約1000万円となり、それでも高額だ。
世界に冠たる日本の医療保険制度(国民皆保険)のもとでは、月額8万100円を超える医療費分は保険で支払われる。よって、この「夢の新薬」は日本の健康保険制度への負担になる可能性もある。
ただでさえ我々団塊の世代(1947~1949年生まれ)が全員75歳以上の後期高齢者になる2025年には、医療費がかさみ日本の医療保険制度が危機を迎えるという「2025年問題」への危惧もある。
がん予防こそ重要
本庶博士の研究は誠に偉大である。それにケチをつけるつもりは毛頭ないが、どんな偉大ながん治療法の発見も、「がんという病気の結果」に対処する方法である。火事にたとえると、火事の火を消す技術である。しかし、そうした技術より大切なことは、火事を防ぐ方法・技術である。
よって、毎年38万人以上の日本人の生命を奪うがんを予防する方法にこそ、力を入れる必要がある。
これまで「がんの免疫療法」、つまり「免疫を高める(アクセルを踏む)方法」は100年たってもあまり進展がなかったところに、本庶博士が「がん細胞への免疫を抑えるブレーキ後のPD-1に対する抗体をつくり、つまりブレーキを外すことで免疫を強くしてがんを治療する」という「コペルニクス的発見」をされた。
「がんに対する研究・治療は長足の進歩を遂げた」「がんの予防法に関しても種々の画期的な方法が発見された」とされながらも、がん死者数は1975年の13万人から2017年には38万人に激増している。つまり、現在のがんに対するオーソドックスな予防法や治療法に疑問を持つ必要があるのである。
本庶博士は「教科書を嘘だと思う人は見込みがある」「自分は(世界的な科学誌である)『Nature』や『Science』に載った論文も信用しない。10年後には9割が間違っていたことになる」などとおっしゃっている。
(1)「がん細胞に免疫力から逃れて生き延びる仕組み」が備わっている
(2)もう50年以上も前にグリーンスタイン博士が『がんの生化学』という書籍のなかで、こう書いている。
「がんにかかっている生体は、がんを排除する方向よりは、むしろがんを増殖させる方向にたんぱく質の代謝を変えていく。つまり、肝臓でのタンパク質合成を多くし、このたんぱく質を正常細胞ではなく、がん細胞のほうに優先的に利用させる」
これらの事実からして、「がんは生体にとって何か大切な作用をしているのではないか」と考え、「がん性善説」を唱える医学者もいらっしゃる。がんに対するこうしたコペルニクス的論理の転換をしないと、がん(火事)の予防、がんの根本的治療(火事の消火)はできないのではないか。
(文=石原結實/イシハラクリニック院長、医学博士)