「なぜ、あんなにどんくさいのに、ナマケモノは絶滅しないのか」
そんなひどい言われようのナマケモノだが、サーベルタイガーやマンモスが姿を消すなかで、6400万年を生き延びている。今日存在する6種類のうち、絶滅を危惧されているのは2種だけ。
自然界の厳しい競争に負けず、ナマケモノはたくましく生きているのだ。
人間の限定された生き方というレンズを通して動物を眺めてしまっているが、動物の生態は千差万別である。
そんな動物の世界の秘密を明かしていくのが、『子どもには聞かせられない動物のひみつ』(ルーシー・クック著、小林玲子訳、青土社刊)だ。
本書では、動物学者のクック氏が、ビーバーの睾丸をかじり、カエルが原料の娼薬を飲み、ハゲワシと空を飛ぶために崖から身を投げ、嫌われ者たちの誤解を正し、人気者たちの裏の顔を暴いていく。
クック氏は、冒頭のような問いかけを繰り返しされ、ナマケモノの評判の悪さを見かねてナマケモノ愛好協会を設立。彼らの真実を伝えようと各地をまわって講演をするほどのナマケモノ好きだ。そして、本書の中でも熱くナマケモノ愛をつづっている。
ナマケモノは、自然界に最もユニークな方法で適応した動物の一種。
木の上を移動する速度はなんとカタツムリ程度。全身を藻類で覆われ、虫にたかられ、週に1度しか排便しない。食生活の大半を占める木の葉は1日に160キロカロリーしか摂らない。なぜなら、平均的なナマケモノの胃は、2週間強かけて木の葉に含まれる食物繊維や毒性を分解するが、それ以上速めると肝臓の働きが追いつかなくなり、自ら口にした毒にやられてしまいかねないのだという。
このようにナマケモノがぐうたらに見えるのは、極限まで耐久力を高めようとしているからなのだ。では、ナマケモノの天敵対策はどうなっているのか?
主な捕食者はオウギワシ。世界でも1、2位を争うサイズとスピードを誇る猛禽類で、爪はハイイログマ並みに大きく、翼を広げると2メートルにもなるという。そして、トップスピードは時速130キロ。視力も良く、聴力もずば抜けている。
ナマケモノなど一度見つかればひとたまりもない。ならば、見つからなければいいということになる。
ナマケモノは擬態の達人。密林の奥に姿を隠すことに長けている。さらに、ほぼ1日中木のようにじっとしている。体を動かすときも驚くほど遅いので、物音も立たない。そのため、オウギワシのレーダーにも引っかからない。
ナマケモノはナマケモノなりの生命力や生きる知恵を備え、過酷な自然淘汰を乗り越えてきた。
本書にはナマケモノのほかにも、乱倫なパンダ、売春するペンギンなど、大人目線の動物エッセイがつづられている。かわいいと思っていた動物たちの裏の顔を垣間見ることができる。動物園に行って実際に動物たちを観察したくなる一冊だ。
(新刊JP編集部)
※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。