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子宮温めると運気アップ、生理の経血コントロール…トンデモ健康法広める善意の加害者たち

文=村田らむ
子宮温めると運気アップ、生理の経血コントロール…トンデモ健康法広める善意の加害者たちの画像1山田ノジルさん

 現在、多くの人が自分の健康に気を配っている。マスコミは「人生100歳時代」を叫び、なるべく元気で長生きしようと、それぞれが努力をしている。喫煙や飲酒などの悪癖はやめて、体脂肪は減らし、健康的な食物だけを食べて……となかなか大変だ。インターネットで調べてみると、さまざまな健康法であふれている。

 ただ、なかには、

「○○だけを食べていたら毒素が出た」
「骨盤の歪みを治したら痩せた」

など、どうも怪しいなという健康法もたくさんある。この手の怪しい健康法のなかには、女性をターゲットにしたものが多い。

 そんな女性向けトンデモ健康法(トンデモない健康法の総称)の恐ろしさを書いた『呪われ女子に、なっていませんか?』(KKベストセラーズ)の著者、山田ノジルさんにお話を伺った。

「ここ5~10年くらいでスピリチュアルめいたおかしな健康法が目につくようになりました。SNSの流行から『素人アドバイザー』が適当な効果効能を広げるようになったというのは大きいと思います」

 怪しげな健康法は、なぜ女性をターゲットにしたものが多いのだろうか?

「女性独自のものの代表に、生理があります。生理はコントロールできないし、毎月実感があります。気を配っていても、誰でも不調になることはあります。そこで、『コントロールできないのはあなたの努力が足りないからだ!!』と揺さぶりをかけるわけです。また妊娠、出産、子どもなども完全にコントロールすることはできません。つまり、男性とくらべて不安定な状況に陥ることが多いため、つけこまれやすい状況が多くなりやすいのです。

 怪しげな健康法は、なにかと『子供が病気なのは、愛情不足』『妊娠していた時に食べていたものが悪かったから、子供が病気になった』などとたしなめてきます。もちろん証拠なんかありません。でも間違っていると証明することもできません。そういう自分ではどうしようもないことを叩くのって、鬼畜の所業だと思いますね」

 ここで、女性をターゲットにしたトンデモ健康法をいくつか紹介したい。

(1)子宮系女子

 女の幸せは、子宮を大切にすることから、をモットーにした考えを持つ人たちを総じて子宮系女子と呼んでいる。

「健康法の域はとっくに超えています。子宮をケアして、子宮をポカポカに暖めていれば、体調が良くなるのはもちろん、運も金回りもよくなる。恋愛も仕事も成功する。なんて『カルト宗教』みたいなことになっていました」

 またにカイロをあてたり、半身浴をしたり、ストレッチをしたりして子宮が冷えないようにする……というのまでは、まだわかる。もちろん効果があるかないかは定かではないが、下半身を温めても害はないだろう。

 しかし、膣の内部に常にパワーストーンを入れておく、というかなり怪しい健康法まで推奨されていた。生理の時はパワーストーンを布袋に入れて首から下げておくそうだ。パワーストーンが化学反応で電流を起こし子宮が温まる、との説明もあったという。電流云々は論外だし、膣内に石をずっと入れておくのは、衛生的には良くないだろう。

「またかなり高額のセミナーを開催している団体もありました。一回の参加費が4~5万円なのは当たり前でしたね」

 金額が高くなると、やめてしまう人ももちろんいるが、参加した人は引くに引けなくなるという。

「何万円も払ってセミナーに参加する人は、期待値もすごく高いわけですよ。それにやめてしまったら、今までの努力が無にかえってしまうと思うと、悔しかったり、怖かったりして、なかなかやめられません」

 正直、周りから見ていると『何をバカなことを言っているんだ』と思ってしまうが、信じている人たちは真剣だ。真剣なゆえに、そのままどツボにハマってしまい、抜け出せなくなってしまう。

(2)経血コントロール

「経血コントロール」は生理の時に流れ出る血を、尿のようにコントロールして排出するテクニックのことだ。

「そんなの無理に決まってるじゃない!」

と思う人が多いだろうが、実践者の間では骨盤底筋を鍛えれば経血を腟内にとどめておいたり、子宮内膜が剥がれる感触を察知してトイレで一気に出すことが可能といわれている。

「『昔の人はできていた。今の人は身体が冷えていたり、筋肉が落ちているからできなくなっている』という理論なんです」

 しかし、そもそも昔の人が、経血のコントロールができたという明確な証拠はない。

生理用ナプキンに経血を吸収させる手当てを『粗相』とか『おもらし』とわざと恥ずかしい呼び方をして、女性に罪悪感をもたせます。情けないと思うなら、女性が本来持っていた力を取り戻そうというのが、提唱者のやり口ですね」

 ただ、骨盤底筋を鍛えること自体は悪いことではない。頻繁にトイレに行くのはめんどうくさいし、ナプキンなどでせっかく現代の女性が得た便利さを手放すことになるが、それで病気になることはない。

 ただ、ここから経血コントロールをしたことにより、「生理痛が軽くなった」「セックスレスが解消された」と話が一気に飛躍する。そして「子宮筋腫や、子宮内膜症も治った」などという“病気が治った”系の話も出てくる。股の筋肉を鍛えたからといって、子宮系の病気が治るとは考えられない。結果的に、病院に行くのが遅れ、病気の悪化につながる可能性があるのだ。

(3)布ナプキン

 同じく、生理をターゲットにしたのが、「布ナプキン」だ。現在、多くの人が使っている使い捨ての紙ナプキンではなく、洗濯して何度も使える布製(多くはコットン製)のナプキンを勧めている。

 紙ナプキンに対しては、「使っていると化学物質やダイオキシンで子宮が汚染される」「紙ナプキンに使われる高分子ポリマーが、子宮周辺の熱を奪う」などと、根拠のない論理で否定している。また、使い捨てはよくないとエコ意識が高い層も同調している。

「正直、布ナプキンの使い心地は悪くないです。当てていて嫌な気分にはならないです。でも、清潔でもないし、エコでもないですね」

 外でナプキンを取り替える時は、もちろんそのまま捨ててしまうことはできない。使い終わった布ナプキンはジップロックに詰めて家に持ち帰る。そしてその日のうちに洗わなければならない。かなりめんどくさい作業である。

 また結局洗濯するために水や洗剤を使うわけで、エコでもなくなってしまう。肌が弱く布ナプキンでないとかぶれてしまう人が使うのはわかるが、そうでない人がわざわざ使用する意味はあまりない。

「自分の身体に手をかけることに達成感を感じる人が使用すると思います。もちろん『本人が楽しければいいじゃないか』と思う人もいるでしょう。もちろんそのとおりです。でも、『紙ナプキンを使うと身体に悪い』と思い込んでしまうのは問題なんです」

靴下5枚重ね履きで懐妊

 スピリチュアル商法や健康食品商法が使う悪質な方法は、購買者に「○○をしなかったら不幸になる」と信じさせることだ。

 たとえば、

パワーストーンの数珠をつけていないと、不幸になる」
「オーガニック食品以外を食べたら病気になる」

と思い込ませる。これだって、本人が良ければ別にどうでもいい話には見える。

 ただ、「パワーストーンをなくしてしまった」「オーガニック以外の食材を食べなければならなくなった」という場合に困ったことになる。本当に心の病気になってしまったり、体調が悪くなってしまうのだ。

「布ナプキンも同じなんです。もし災害などで紙ナプキンしか使えない状況になってしまったら、紙ナプキンは身体に悪いと信じ込むあまり、本当に頭が痛くなったり、体調がめちゃくちゃ悪くなってしまう場合があるんです。まさに病は気からですね。この現象は、私は『呪い』だと思うんです。そもそもは『身体のケア』だったり『健康法』だったりしたものが、いつの間にか『呪い』になってしまうのって、本末転倒ですよね?」

 女性をターゲットにした健康法はほかにもいくつもある。

 身体の冷えがすべての害悪のはじまりだと考える「冷え取り健康法」では、靴下を5枚重ね履きすれば、足裏から毒素が出て健康になると教える。その結果、白髪は黒くなり、不妊は解消され、ガン細胞も消える。無論、靴下を重ね履きしただけで、そんなに良いことが起こるはずがない。

 ほかにも、身体から毒素を抜くといわれている「デトックス」、化学的に合成された肥料や農薬を使わずにつくられた食材だけを食べる「オーガニック信者」、身体の歪みを治すという「マッサージ」「整体」、サプリや食品で酵素を補えば痩せるという「酵素ダイエット」などなど、実は効果の程は定かではない、いい加減な健康法がそこら中に転がっている。

真面目な人ほどハマりやすい

 どのような人が、そのようなトンデモ健康法の呪いにかかってしまうのだろうか?

「基本的には真面目な人が多いと思います。自分で勉強しようと思って、ネットで調べてトンデモ健康法に行き着いてしまう場合が多いですね」

 ネットで調べると「トンデモ健康法」が優先的に引っかかりがちだという。

 たとえば、ダイエットを例にとると実際に痩せる方法といえば「食事を制限する」「運動する」の2つくらいしか方法はないが、ネットで調べると「骨盤の歪みを治す」「サウナに入る」「水素水を飲む」など、さまざまな方法が出てくる。

「当たり前の情報って書くまでもないことだったり、宣伝するまでもないことだったりするので、あまり出てこないんですよ。それで調べていた人が興味をそそられるトンデモ健康法を見つけてしまって、そこからのめり込んでしまうんです。真面目だから、修行のように労苦を重ねることで健康になると思い込んでいる人も多いです。布ナプキンや経血コントロールなんかはその類ですね。めんどくさがりのいい加減な人にはできません」

 また、入り口のハードルが低いため、とりあえずやってみるか? と思って参加する人もいるという。

「たとえば病院で不妊系の治療をしようと思ったら大変です。不妊系の治療はおカネがかかりますし、そもそも予約自体なかなか取れない。それだけ苦労しても、確実に妊娠できるわけではない。

 そこで悩んでいる時、ネットを見てたら『靴下を5枚重ね履きしたらご懐妊』とか書いてあるのを発見するわけです。靴下を重ね履きするのは楽なことですからね。とりあえずやってみようかと思ってしまっても仕方がないですね」

 つまり女性ならば誰でも、女性向けのトンデモ健康法にハマってしまう可能性があるといえる。

 男性も、恋人や妻がいつの間にか、トンデモ健康法にハマり大いに困ってしまうこともあるだろう。そして、呪われた女性たちは周りの女性たちにトンデモ健康法を広げていく。つまり“呪い”を広めていく。いわば善意の加害者になるのだ。

「もちろんあとから目が覚めて、後悔している人は多いですよ。怒っている人もいますけど、私は笑ったほうがいいと思います。あんな時期もあったね、と。ただ、厄落としになったとか、あれは何か意味のある出来事だった、などと考えると、また別のスピリチュアル物件にハマりかねないので気をつけていただきたいですね。

 代替医療には多くの人が興味を持つと思います。全部が全部間違ってるとは言いません。でも代替医療だけに頼るんじゃなくて、標準的な治療と並行してやるようにしてほしいですね。そうすれば最悪の事態は避けられる可能性が高くなると思います。ただ、代替医療に期待する人は、一旦一般的な医療に絶望した人も多いから、難しいんですよね」

 女性をターゲットにしたトンデモ健康法には、女性の身体を気遣っているフリをした“呪い”や“脅し”が飛び交っているのがわかった。おカネを失ってしまったり、本来治療を受けていたら治っていた病気が手遅れになってしまう可能性もある。また、家族や友人、同僚と断絶してしまい、離婚、一家離散、離職などになるケースもある。

 ネットで心をくすぐられるお手軽な健康法を見つけても、簡単には手を出さないほうが賢明だ。
(文=村田らむ)

村田らむ

村田らむ

ライター、イラストレーター、漫画家。 最新の著作は 『人怖 2 人間の深淵なる闇に触れた瞬間』『人怖』(竹書房) 『非会社員の知られざる稼ぎ方』(光文社) 『禁断の現場に行ってきた』『こじき大百科』『ホームレス消滅』『ゴミ屋敷奮闘記』『樹海考』丸山ゴンザレスとの共著『危険地帯潜入調査報告書』など。

Twitter:@rumrumrumrum

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