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小谷寿美子「薬に殺されないために」

抗生物質、風邪(かぜ)に“効かない”のに病院で処方される理由

文=小谷寿美子/薬剤師
抗生物質、風邪(かぜ)に“効かない”のに病院で処方される理由の画像1「Gettyimages」より

抗生物質が誤解されている

「これ何の薬ですか?」
「抗生物質ですよ」
「……」
「原因となるばい菌を殺す薬です」
「今熱があるんだけど、熱に効くんですよね?」

 患者さんへの服薬指導時に、こんなやりとりがありました。その続きですが「原因となるばい菌がなくなれば、結果的に熱が下がってきます」と答えておきました。熱があって具合が悪い時は、説明を聞いてはいるものの、納得できる部分だけ聞いているものです。

・抗生物質服薬→原因となるばい菌を殺す→ばい菌がなくなれば熱を出す必要がなくなる→熱が下がる

 という流れで熱が下がるわけですが、途中の過程を省略してしまうと「抗生物質→熱が下がる」となり、熱を下げる薬として認識してしまいます。抗生物質では効かない熱に対しても患者さんから「抗生物質ないんですか?」と訴えられ、処方してしまうケースがあります。

 昨年10月に「抗菌薬意識調査2018」というものが発表されました。抗菌薬という普段聞きなれない言葉が出てきますが、「抗生物質+合成抗菌薬」で細菌を殺す作用のある薬すべてを指します。服薬指導をするとき、合成抗菌薬であっても患者さんがよく知っている「抗生物質」という言葉で説明してしまうことがあります。ここでは正確にするため「抗菌薬」とします。

 この意識調査は、AMR臨床リファレンスセンターが10代から60代までの男女721名を対象にインターネットによる回答を集計して調べたものです。これによると、「抗菌薬がどのような病気に効果があると知っていますか?」という質問に対して、「風邪」と答えた方が49.9%、インフルエンザと答えた方が49.2%でした。残念ながら風邪とインフルエンザには効果がないのですが、効果があると誤解されています。一方、膀胱炎が26.7%、肺炎が25.8%という回答で、正しく理解している人は少ないことがわかりました。

「抗菌薬はどのような薬だと思いますか?」という質問では、71.9%の方が「細菌が増えるのを抑える」と正しく回答できました。一方で、「熱を下げる(40.9%)」「痛みを抑える(39.9%)」と誤解している人もいました。

「風邪で受診した時に、どのような薬を処方してほしいですか?」という質問への回答は、「咳止め(61.9%)」「解熱剤(59.8%)」「鼻水を抑える薬(53.0%)」「抗菌薬(30.1%)」「痰切り29.1%」でした。風邪には効果がないにもかかわらず、およそ30%の人が自ら抗菌薬を希望しているということです。

小谷寿美子/薬剤師、NRサプリメントアドバイザー

小谷寿美子/薬剤師、NRサプリメントアドバイザー

薬剤師。NRサプリメントアドバイザー。薬局界のセカンドオピニオン。明治薬科大学を505人いる学生のなか5位で卒業。薬剤師国家試験を240点中224点という高得点で合格した。
市販薬も調剤も取り扱う、地域密着型の薬局チェーンに入社。社歴は10年以上。
入社1年目にして、市販薬販売コンクールで1位。管理薬剤師として配属された店舗では半年で売り上げを2倍に上げた実績がある。

市販薬、調剤のみならずサプリメントにも詳しい。薬やサプリメントの効かない飲み方、あぶない自己判断に日々、心を痛め、正しい薬の飲み方、飲み合わせを啓蒙中。

Twitter:@kotanisumiko

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