風邪に抗菌薬が効かない理由
風邪は熱、のどの痛み、鼻水、咳痰の症状が同時に現れます。熱だけがある、のどの痛みだけがあるといった症状はかぜではありません。そして、それらの症状は中程度といわれ、さほど強くありません。熱といっても微熱程度ですし、のどが痛いといっても食事はのどを通ります。鼻水は出ますが、ある程度の間隔でティッシュでかめばよく、咳痰はあっても夜中に眠れないほどではないのです。風邪の原因はアデノウイルスやライノウイルスなど「ウイルス」です。これらのウイルスが鼻やのどから侵入して全身に入っていきます。ウイルスを追い出すために、風邪の4症状が出るのです。
ウイルスと細菌はどちらも病気の原因になるため、混同されがちです。しかし、生物として決定的に違いがあります。細菌は生物で、自ら増えることができます。一方、ウイルスは生物ではなく、他の生物に寄生することで増えることができます。
病原ウイルスはヒトという生物に寄生しているから問題となるのです。ウイルスはヒトの細胞に潜りこんでしまうので、ウイルスを攻撃しようとするとヒトの細胞ごと攻撃することになってしまうため、薬がつくりにくいのです。それでもウイルス特有の物質に注目してそれを抑える薬をつくることはできます。帯状疱疹の原因となるウイルスやB型肝炎の原因となるウイルスについては薬があります。
しかし、風邪の原因となるアデノウイルスやライノウイルスは毎年型が変わるので、薬をつくったとしても意味がありません。また、風邪の場合は3日程度したら自然治癒するので、わざわざ開発費をかけてつくる必要がないのです。風邪には原因そのものに効く薬はありません。
抗菌薬は細菌特有の物質に注目して、それを抑える薬です。ウイルスと違ってヒトの細胞とは独立して存在しているため、ウイルスのみを標的にしやすく、薬がつくりやすいのです。そのため抗菌薬は数多くの種類があります。抗菌薬は細菌特有の物質に注目しているので、ウイルスには効果がないのです。風邪の原因はウイルスなので、風邪には抗菌薬が効かないというわけです。
必要がないのに服用すると副作用の懸念
それでは、なぜ、風邪で受診した際に抗菌薬が処方されるのでしょうか。風邪だと思っていても、診断の結果、風邪ではなかったからです。細菌による咽頭炎、副鼻腔炎、気管支炎、肺炎といった診断が出れば、抗菌薬が処方されます。はじめは風邪の症状だったものの、体力が落ちているうちに細菌感染することがあります。そういった時は抗菌薬が必要です。
一方、患者さんが希望したから仕方なく処方することがあります。開業医の先生に多いのですが、患者さんは「お客様」なので、評判が悪くなると「集客」に影響してしまいます。それで患者さんから申し出があったときに、仕方なく処方してしまうのだそうです。
必要がないのに抗菌薬を飲んでも、副作用の可能性を増やすだけです。むやみに「抗生物質ください」と希望しないようにしてください。
(文=小谷寿美子/薬剤師)