職場の空気を改革したい
2018年は政府主導で、まずは労働時間の短縮や休暇の取りやすさなどの改革が推進されてきました。ただ、働く人のストレス研究では、ストレスの要因として「職場の人間関係」が安定して上位をキープする状況が長年続いています。労働時間だけでなく職場の人間関係も改革を進めたいですよね。そこで、まずは職場の“気まずい空気”を換気する絶対法則からご紹介しましょう。
気まずい空気の正体は「敵かもしれない」反応の連鎖
私たちが“空気”と呼ぶものには、一定の法則と理論があります。その理論と法則を見抜けば、職場の空気を良くすることは意外と簡単です。結論からご紹介しますと、気まずい空気の正体は脳の「身近に敵がいるのではないか」という反応です。
実は私たちの脳は周りに敵がいないかを無意識的にモニタリングしています。職場で誰かの脳が「敵がいるかも……」と反応すると、その反応は有形無形で周りの人に伝わります。すると、周りの人の脳も「敵がいるかも……」と反応するのです。この反応には不快感が伴いますので、居心地の悪い職場になります。職場の空気が悪くなる原因の正体は、脳の敵発見システムの連鎖だったのです。
空気の換気はニューカムのABXモデルで考えよう!
実は人が人に対して「敵かもしれない」というマイナス感情を覚える仕組みは、心理学ではニューカムのABXモデルが解明しています。類似のモデルとしてはハイダーのPOXモデルといわれるものもありますが、ここではABXモデルで職場の気まずい空気を換気する方法をご紹介しましょう。
ABXモデルは、AさんとBさんがいる時に2人が注目している対象や話題(X)への感情が、2人の間の感情に影響することを表したモデルです。左の図のように、AさんとBさんが注目しているXに2人ともプラスの感情を持っていれば、2人の間の感情もプラスです。仮にXに対して2人ともマイナスの感情でも、2人の間の感情はプラスです。同じものを好む、あるいは同じものを嫌う、ということで、仲間であり味方であるからです。
一方で、右の図のようにXに対する感情において2人の間でプラス感情、マイナス感情がずれてしまうと2人の間の感情がマイナスになります。利害が対立してしまいかねないので、敵になってしまう可能性があるからです。
みんなが同じ気持ちになれる「X」があるだけで、職場の空気が良くなる
職場の空気を換気する方法、みなさんもうおわかりですね。そうです、みんながプラスの感情を持つ、あるいはマイナスの感情を持つ「X」に注目してもらえればいいのです。間違っても、あなただけがプラスに思っている「X」に注目させようとしてはいけません。
みんなが白けてしまうだけでなく、あなたが敵のように思われてしまいます。ますます職場の空気が悪くなってしまいます。たとえば、「中年男性の管理職がつまらないダジャレを飛ばす」ようなのは最悪ですね。
「X」はなんでも大丈夫です。たとえば、美味しいものの話、みんなが楽しみにしているプロジェクトの話、昇給の話など、みんなの気持ちがひとつになれれば、なんでもいいのです。悪いものでも大丈夫です。たとえば、「職場にゴキブリが出た!」「大雨で帰りが心配」など、困っている事柄でも大丈夫です。
職場のみんながいい「X」を意識すれば、理論上は職場の空気が淀むことがなくなります!
職場の空気を一瞬で換気する絶対法則、この法則を使えば職場の空気がよくなることは必然です。上手に「X」を用意するのは工夫や心がけが必要ですが、これだけで職場の空気を改善できて働きやすくなるのです。働き方改革は時間の管理だけでなく、職場の空気の管理も大事にしたいですよね。どうぞ、いい「X」を使って、いい空気のなかで働いてくださいね。
(文=杉山崇/神奈川大学心理相談センター所長、人間科学部教授、臨床心理士)