毎日のランチを、出費や健康が気になる外食からお弁当に切り替え、自炊をするようになった、なんて人もここ最近は少なくないことだろう。しかし、そんなお弁当も近年は“映え”が重視されたりと、自炊初心者にとっては少々ハードルが上がっている風潮がある。だが、そんな自炊初心者にとって“地味”という要素を大々的に打ち出したサイト「地味弁.com」は、自炊のハードルを下げてくれる心強い味方だ。
このサイトには約70種(2021年1月1日現在)のお弁当レシピが公開されているが、例えば「乱切り楽々チンジャオロース弁当」「野菜いろいろプルコギ丼弁当」「チャーハンミートボール弁当」「かんたん甘辛焼き」など、確かに茶色がかなり多めで地味な色合いの地味弁がずらっと並んでいるのである。だがしかし、この地味弁、どれもこれも美味しそうなのだ。
「白黒の食材が際立つ春のモノクロ弁当」/寺井幸也氏考案
「ご飯の旨み引き立つかんたん甘辛焼き」/しらいのりこ氏考案
「乱切り楽々チンジャオロース弁当」/ツレヅレハナコ氏考案
「気分は夏休み! 海の家弁当」/ぐっち氏考案
「しっかりめの味付けでごはんがすすむ! 野菜いろいろプルコギ丼弁当」/和田明日香氏考案
「大きな肉団子で大満足! チャーハンミートボール弁当」/栗原心平氏考案
実はこの「地味弁.com」、全国農業協同組合連合会(JA全農)が企画するお米の消費拡大を目指すプロジェクト、「NO RICE NO LIFE PROJECT」の取り組みのひとつなのだとか。そこで今回、その詳細について、JA全農の担当者である池山氏に話を聞いた。
簡単に短時間で彩りを気にしない美味しさが地味弁の魅力
まず、地味弁のコンセプトや定義とはなんなのか。
「見た目は気にせず、華やかさよりも美味しさを追求することで、頑張らなくていいお弁当というのが地味弁です。無理せず、気張らず、みんなが幸せになるお弁当生活を提案していくというのがコンセプトですね。
具体的に言いますと、我々が提案している“地味弁”の定義は次の5つです。
【お米はマスト!】これはお米を楽しめてこその“地味弁”という考えからです。
【映え禁止!】SNS映えは気にせずにつくるということもポイントとなってきます。
【品数2品程度!】お手軽さは美徳であるという考えから来ています。
【色は3色程度!】こちらはシンプルな美しさを目指してほしいということですね。
【調理時間は10~30分!】長続きの秘訣は短時間調理ですので、継続して習慣化していただくために、こういった提唱もしています。
簡単に短時間でお米も楽しめるお弁当を目指して、こういった定義づけをさせていただいているんです」(池山氏)
彩り豊かな一般的なレシピサイトとは違い、見た目が単色になっても気にしないスタイルでレシピを紹介しているということか。では、なぜ“地味さ”に目を付けたのだろうか。
「ピクニックや運動会といったイベントで気合いを入れてお弁当をつくる場面では、色合いにも気を使って、さまざまなメニューを入れ込むのも苦ではないかもしれません。とはいえ、たまのイベントならば凝ったものをつくろうと思えますが、毎日手づくりでお弁当をつくっているような人にとっては、そこまで毎回気を使うのは骨が折れる作業です。
しかし、いわゆる“映え”を重視しない地味なお弁当なら、手軽につくれて毎日の準備もかなり楽になりますよね。そうすれば、ずっと継続してお弁当に向き合ってもらえるのではないかなと思ったのがきっかけでした。それが最終的に、お米の消費拡大につながってほしいなというのが我々の願いなんです」(池山氏)
なるほど、“お米消費拡大”という目標から逆算して誕生したのが「地味弁.com」ということのようだ。サイトで紹介されている地味弁たちは誰が考案しているのだろうか。
「『地味弁.com』では、地味弁の定義をしっかり理解してくださる料理家の方にレシピを考案してもらっています。毎年、たくさんの料理家の方にジョインしていただいて、レシピを追加してきました。
あくまで一例ですが、料理家として料理番組『男子ごはん』(テレビ東京系)などでも活躍している栗原心平さん。料理愛好家・平野レミさんの次男と結婚し、多くもメディアでオリジナルレシピを紹介している料理家の和田明日香さん。米農家の旦那さんと炊飯系フードユニット『ごはん同盟』を主宰している、料理研究家のしらいのりこさんなどがいらっしゃいます。
こういった料理業界で著名かつ人気の方々に依頼し、現在20名以上の料理家にご登場いただいているので、レシピもかなり多彩になってきました」(池山氏)
「地味弁.com」を開設した反響はなかなか大きかったのだとか。
「レシピは現時点で70種ほど公開していて、Twitterでもその情報を随時共有しています。嬉しいことに、Twitter上では“見た目が茶色いけど美味しそう”とか、“実際につくってみたい”などという声もいただいておりますし、、ウェブなどのメディアでも取り上げていただいたこともあります。
『地味弁.com』は公開から約2年半が経っているんですが、これからも地味弁らしく地味にメニューを追加して、継続していきたいと思っています」(池山氏)
「地味弁.com」以外にも個性豊かなコンテンツを展開している
次に、「NO RICE NO LIFE PROJECT」を立ち上げた背景を聞いた。
「現在、お米の消費量は残念ながら年々減少している状況で、個人のお米消費量はピーク時の半分ぐらいとなってしまっています。ピーク時というのは60年くらい前なんですが、当時は1人あたり年間120kgほどのお米を消費していたのです。
また、直近では新型コロナウイルス拡大の影響もありまして、外食でお米を食べる機会というのも減ってしまった方が多いのではないかと思います。こうした状況をどうにかしたいと考え、われわれJA全農では、お米を楽しく、美味しく食べていただきたいという想いから、お米の消費拡大プロジェクトである『NO RICE NO LIFE PROJECT』を立ち上げ、現在もさまざまなプロジェクトを進めております」(池山氏)
「地味弁.com」以外には、一体どのようなプロジェクトを進めているのだろうか。
「例えば、普段コロナ禍での運動不足などを背景に体づくりや筋力アップを意識される方が増えたというデータをもとに、お米は筋トレに効果的であるという情報を発信するため、『筋肉×ごはん RICE BODY』というコンテンツを作成しました。最近は糖質を気にしてご飯を食べずに運動されるという方も多いかもしれませんが、実はトレーニングして筋力アップしたいときには、鍛えたい筋肉を動かすためのエネルギーが必要で、その主なエネルギーというのは糖質なんです。糖質のなかでも脂肪が少ないお米は、体づくりにぴったりです。
このコンテンツは、“バズーカ岡田”の愛称で知られる理学療法士で日本体育大学准教授の岡田隆さんに監修していただいております。岡田さんは柔道全日本男子チーム体力強化部門長を務めた、いわば体づくり、筋肉づくりのスペシャリスト。お米が筋トレをする方にお勧めしたい食材である理由を、詳しく解説していただいています。
また、お子様にお米を好きになってもらうための食育プロジェクトとして、お米のうたとダンス『ひとつぶ』という曲と動画を制作しました。これはアーティストの吉田山田さんとコラボして作ったお米の曲で、お子様たちに歌って踊ってもらいながら、お米を好きになってもらおうというものです。ダンスと組み合わせた食育コンテンツも、特設ウェブサイトで公開中です」(池山氏)
そのほかにも、意外にもフライパンひとつで簡単につくることができるという、スペインの名物料理パエリアを特集した『週末はパエリアの日!』というサイトもあるそうだ。また、SNSでもプロジェクトを展開しているそうで、お米キャラクターのライスライダー(@RiceriderZennoh)は、Twitterにて毎日お米の知識を発信しているという。
最後に、JA全農ではお米の消費拡大のためにどのような活動を行っていくのかを聞いた。
「ここではまだ言えないのですが、ほかにも多くの企画を考えておりまして、そういった企画を通して、みなさんにお米を食べていただけるような情報を発信していきたいですね。今、お米を食べると太ってしまうんじゃないかとか、ご飯を炊くのがめんどうとか、お米に対してネガティブなイメージや悩みを持つ人が増えている印象があります。我々としては、そうした気持ちにきちんと向き合って応えていくことが大切だと思っています。これからも美味しく楽しくお米を食べていただけるような情報を発信していく所存です」(池山氏)
一見地味に見えるお弁当が並ぶ異色のサイト「地味弁.com」。その裏側を覗いてみると、日本のお米事情を変えていこうと日々奮闘する試みが見えてきた。「NO RICE NO LIFE PROJECT」の多彩なコンテンツ作りと、お米文化の進化はこれからも目が離せない。
(取材・文=海老エリカ/A4studio)