美容クリニック、宣伝費は月4000万、HP写真も加工?危険な自由診療で死亡事故も
自由診療で“夢の新技術”とまで言われるのが、幹細胞を使った再生医療だ。
「幹細胞は傷ついた細胞を取り換えたり、失った細胞を補完したりする。人の体は約60兆個の細胞でできているのだから、幹細胞を使えば病気やけがで悪くなった部分を治したり、脳の活性化や血管の若返りなどで体の内面から若さを取り戻す『アンチエイジング(抗加齢)』にも効くだろう」という考えに基づく診療だ。
当初10万個程度の細胞を、約1カ月かけて、1億個以上に培養する。その幹細胞を点滴や注射で患者の体内に戻すと、傷ついた組織が再生していくという幹細胞治療を、あるクリニックでは2009年以来約400人に実施。リピート率は5割に達するという。
この治療は、アンチエイジングだけでない。糖尿病などの成人病の予防やがん、脳卒中、アレルギーなどさまざまな病気に対して行われており、“夢の新技術”とたたえる者もいるほどなのだ。
しかし、問題は保険診療ではなく自由診療になる点だ。自由診療は保険の適用外、1回150万~200万円に上る“夢の新技術”の治療費は、全額患者負担となる。
また、「保険診療のように有効性と安全性が確認されていないため、高額な治療費を払いながら、なんの効果もなくて不満を訴える者もいれば、体に不調を来して寝込んでしまう者もいる。自由診療ゆえに、その実態が国に報告されるわけではなく、患者は泣き寝入りに近い」という実情がある。10年、京都で幹細胞治療を受けた韓国人男性が、治療後に死亡した事故も発生している。
このように人気医療には罠が潜んでいる。
効果があるかわからない治療、過剰に費用をかける宣伝
特集「Part1 怪しい科学的根拠」では、自由診療の第1の罠である“不確かな科学的根拠”を取り上げている。未承認の治療法でも医者の裁量で行えるために、自由診療には効果が確認されていない治療法が山のようにあるのだ。
特集「Part2 患者集めのカラクリ」では、自由診療の第2の罠である“過剰なマーケティング(宣伝活動)”を取り上げている。テレビCMやインターネットを駆使して患者を集め、攻めの営業を繰り広げるが、そこには医療機関ではなく企業としての思惑が存在するだけだ。
今回、注目したいのは過剰マーケティングにどれだけの費用をかけているかということだ。例えば、テレビCMの「湘南美容外科クリニック」(スーツ姿の医師たちが「好きな言葉は向上心です」「好きな言葉は感謝です」「私たちは湘南美容外科クリニックのドクターです」というCMだ)は、1カ月の放映費に多い月で4000万円をかけているという。美容診療は自由診療だからこそできるマーケティングなのだ。
また、美容クリニックのつくるホームページは、医療法では原則として規制の対象外となるために、無法地帯状態。国が昨年作成した「医療機関ホームページガイドライン」にも抵触しまくりなのだ。例えば、その手口としては、患部の術前術後を比べた「ビフォー・アフター写真」に、しわだらけの顔や脂肪だらけの身体を、診療ではなく画像加工ソフトで加工・修正して掲載する……といった具合だ。
美容クリニックの中には、ホームページへの訪問者を増やすSEM(サーチ・エンジン・マーケティング)対策のために、自分のクリニック内部に「ウェブ戦略部門」を設け、優秀なエンジニアを雇うこともあるという。
また、多額の費用がかかるリスティング広告も、カネに糸目はつけずに行う。グーグルアドワーズのワードの広告費(月間)では、「脱毛」が約4833万円、「AGA(男性型脱毛症)」が約926万円、「脂肪吸引」が約900万円と……他ワードに比べて断トツに高い。
それでもやっていけるのは、自由診療で時給120万円ともいわれる売上高があるからだ。コラム記事『華麗なセレブ生活は健在 時給120万円の美容外科医』では、脂肪注入豊胸手術の美容外科医で一時「時給100万円のカリスマ美容外科医」としてマスコミをにぎわせた池田優子氏が登場している。クリニックをオープンして11年、これまでの売上高は60億円以上だという。1台4000万円以上のフェラーリを3台乗り回す。
池田氏は、06年に一人娘が誘拐された事件に遭って以降、メディア露出を控えていたが、この春、娘が結婚。「人生にひと区切りがつきました。なので、今、私もお嫁にいきたいなあって思っています。品格と財力を兼ね備えたボーイフレンドを大募集中です(笑)」だそうだ。
それにしても、CMの放映費、グーグルアドワーズの広告費、フェラーリとケタ違いの金額の数々、美容業界関係者に「4000万円」というのは、大した額ではないということか。
(文=松井克明/CFP)