9月に安倍晋三首相の発言を受け、総務省で発足したタスクフォース。安倍首相が「家計への負担が大きい」と料金値下げを指示したことから、このタスクフォースは通称「料金値下げタスクフォース」とも呼ばれていた。
ところが、議論が進むうちに単純な値下げから不公平感の是正に軌道修正が図られていく。諸外国の料金と比較したとき、日本の携帯電話はそこまで高くないことが明らかになったからだ。そのため、12月に公表された「とりまとめ」では、「ライトユーザー向けの料金プラン」「端末への補助金の適正化」「MVNO(格安SIM)の推進」と、結論が3点に集約されていた。
これを受け、総務省ではガイドラインを策定する予定だ。早速、キャリアにも動きがあった。ソフトバンクは、1GBのデータパックを新設する検討を開始した。NTTドコモ、KDDI(au)もタスクフォースの結論を踏まえた料金プラン改定の検討を進めている。とりまとめの提言に従うと、500MBや1GBのような低容量のデータパックが新たに登場することになりそうだ。
現状では、料金プランの組み合わせは限定されている。ドコモは事実上、スマホでは音声定額が必須の新料金プランしか選択できない。auやソフトバンクは音声通話が従量制で基本使用料が安いプランも選択可能だが、こちらは大容量のデータパックしか選べない仕様になっている。今後策定されるガイドラインがどこまで詳細に踏み込むか次第だが、料金プランの柔軟性のなさにもメスが入るかもしれない。
端末の補助金の適正化については、過度なキャッシュバックを取りやめる方向で、検討が進められている。現状では、番号ポータビリティを利用して通信事業者を移ると、端末代が大幅に割り引かれる仕組みになっている。型落ちの端末だと、0円どころか逆にキャッシュバックをもらえることまである。こうした販売方法は、今後なくなっていくはずだ。
価格の多様化が進む
タスクフォースの中間とりまとめでは、割引を24回にわたって受け、端末価格を相殺していく「実質0円」にも歯止めをかけるべきとの提言があったが、ここまでの規制が実現するかは不透明。仮に規制が厳しくなり一切の割引ができないという事態になれば、端末の販売に大きな打撃を与える可能性がある。そのため、割引額を一定にそろえて公平性を保つなど、ソフトランディングを模索する方向性が打ち出されるかもしれない。
大手通信キャリアの回線を一部買い上げて安価に通信サービスを提供している事業者であるMVNOの推進に関しては、従来の総務省の方針から大きな変化は見られない。もともと総務省は、2016年中にMVNOを1500万回線にすることを目標に掲げており、その基盤整備を進めていた。
とりまとめでは、加入者情報を管理する「HLR/HSS」というサーバー機能の開放を目指す旨が記載されていたものの、これも以前から議論されていたこと。短期集中で開催されたタスクフォースで、わざわざ取り上げる必要性はなかったようにも感じる。
この中間とりまとめを受け、ユーザーにはどのような変化があるのか。真っ先に考えられるのは、スマホを持っているものの、あまり使わないライトユーザーが得をするということだ。一方で、もともとデータ通信をふんだんに使うユーザーにとっては、恩恵が少ないかもしれない。ただし、仮に音声定額プランが選択制になれば、通話の少ないユーザーは事実上の値下げになる可能性もある。
端末に関しては、キャッシュバックが規制されるのはほぼ確実。欲しい端末があり、番号ポータビリティを利用できる場合は、今のうちに手に入れておいたほうがよさそうだ。毎月受けられる割引に上限が設けられると、高機能な端末が買いづらくなるおそれもある。各キャリアの戦略にもよるが、今後は端末価格によりバリエーションが出てくることになるかもしれない。
MVNOについては、すぐに何かが変わることはないだろう。とりまとめを見ても、記載されているのは将来に向けた提言が中心となっている。どちらかといえば、時間をかけてサービスが多様化していく方向になりそうだ。
(文=石野純也/ケータイジャーナリスト)