インダストリー4.0は、大企業による支配強化と下位企業の利益減少を加速させる
インダストリー4.0は本当に「革命」となるのでしょうか。あるいは「単なる空想」なのでしょうか。本連載最後の今回は、「企業の利益配分の問題」について見ていきたいと思います。
インダストリー4.0(以下4.0と呼ぶ)の世界では、世界の工場がセンサーとインターネットでつながることで、「まるで1つの工場のようになる」といわれています。このこと自体は技術的には可能でしょう。
各製造装置のセンサーの情報を5Gの技術を用いて高速で収集し、それを外部のネットワークを経由させ、地理的に離れている場所で監視、コントロールします。これにより、世界の工場を、まるで1つの製造ラインのように連動させて、動かすこともできるでしょう(ただし、前回の指摘であるモノの物理的な移動、リードタイムの問題は残りますが)。
しかしながら、ここで大きな問題が発生します。もし、このように「世界の工場がまるで1つの工場」のようにつながってしまうと、企業の利益が筒抜けになってしまいます。具体的には、つなげることで「生産数」と「稼働率」がわかってしまい、取引している企業は、相手がどれぐらいのコストでつくっているかがわかってしまうのです。
取引相手の利益がわかると、より規模の大きい企業、あるいはピラミッド型の上位にいる企業がそれをコントロールすることができるようになります。「もっとコストを下げないと取引をしない」といった圧力をかけることや、「取引の際の価格の基準を下げること」が可能となるからです。
重要情報を開示するなど、あり得ない
例えば、日本の代表的な産業である自動車産業は、現在でも、これに近いやり方でコストダウンを実現しています。具体的には、経営指導という名の下、ピラミッド構造のより上位の企業が、下位の企業の製造ラインを観察し、そこでのコストを推測し、購入価格に反映させているのです。
この活動自体は、日本製自動車の高品質低価格を実現させている点においては評価されるのですが、下位企業が、なかなか利益を出せないという構造的な問題点も抱えています。
つまり、ピラミッド型の産業構造では、下位企業は自分たちで利益をコントロールしにくい状況に陥っているのです。その結果、従業員の給与を上げることもできず、大規模な設備投資も行えず、ただひたすら物をつくり続けているだけの企業も少なくありません。これに4.0のような概念が入ると、さらにそれを加速してしまう懸念があります。