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高杉康成「コンセプト・シナジーな経営戦略」

インダストリー4.0は、大企業による支配強化と下位企業の利益減少を加速させる

文=高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

 一方、パソコン、スマートフォンなどIT機器は、水平分業型の産業構造でモノづくりを行っています。日本の自動車産業のように、ピラミッド構造になっているのではなく、部品メーカー、組み立てメーカーが役割を分担し、一つのモノづくりを行っています。この水平分業においても、利益が筒抜けになるのは当然問題となります。

 そもそも水平分業というのは、さまざまなプレーヤーがそれぞれの製品の品質、コスト、製造能力を武器に、あらゆる場面で競争を行っています。ある製品では受注できても、次の製品では別の企業に仕事を取られたりすることは日常茶飯事です。

 このような企業間競争において、コストは最も重要な競争要因のひとつであり、それがわかる「生産数」「稼働率」といった情報を、センサーの情報を通して取引先に開示するなどあり得ないのです。

 ピラミッド構造であれ、水平分業であれ、それぞれの企業がそれぞれの経営戦略、意思決定の下、価格を決定し、売り上げを上げ、利益を出しています。ところが、その利益が筒抜けになることで、「各企業が生み出した利益は誰のものか」という、資本主義の根底を揺るがすような問題が発生するのです。

 企業の利益は、従業員の雇用、生活を生み出し、設備の再投資により経済が活性化するという社会基盤を担っています。もし、4.0でこれも変えてしまうというなら、それは本当に革命といえるでしょう。

経済原則と物理法則の変化が必要

 これまで見てきたように、4.0は各論を見ていくと、第1回で書いた「ネットワークの脆弱性の問題」、第2回の「IoTセンサーの費用対効果の問題」、第3回の「物流のワープ、コストの問題」、そして今回の「企業の利益帰属の問題」など、あらゆる部分で問題が存在しています。

 そしてそれらの問題は、何かを工夫すれば解決できるような問題ではありません。費用対効果、利益配分といった経済原則、モノの移動といった物理法則のような、変えようのない原則をも変えようとしているのです。

 インダストリー4.0は、その中身が壮大であるため、それを見た人、聞いた人はその内容の壮大さに感銘を受け、共感します。そして、それを学者が論文にし、マスコミが報道し、経済記者が記事を書いて拡散します。しかしながら、そこでは各論が議論されることはありません。まるで、真偽を確かめないチェーンメールのような状態で拡散していっています。

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

高杉康成/コンセプト・シナジー代表取締役、経営学修士(MBA)、中小企業診断士

経営学修士、中小企業診断士、岡山県立大学地域創造戦略センター客員教授
神戸大学大学院 経営学研究科 博士後期課程中退(経営学修士、MBA)。日本屈指の高収益企業、キーエンスの新商品・新規事業企画担当を歴任。退職後、新規事業や新製品開発、ビジネスの付加価値向上などの分野において、大企業から、中小企業まで幅広い業種・企業の指導に携わる。一般消費者向けの小売店、ネット販売企業などにおいても、ビジネスモデルの転換、収益力向上、新製品開発などで数多くの実績がある。
最近では、次世代自動車(CASE)、次世代通信、ロボット、AI、IoT、VR・AR、農業クラウドサービスなど、さまざまな最先端・成長業界における新規参入の支援を、上場企業をはじめ全国の企業に行っている。こういった企業への指導実績から、テクノロジーについても非常に詳しく、最先端分野の知見を有している。専門分野は、ブルーオーシャン戦略、事業戦略、技術経営(MOT)、Webマーケティング。
コンセプトエナジー株式会社

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