7月1日、アップルがiPhoneやiPad、iMacなど多くの自社製品の値上げを実施した。この値上げの背景には、円安や世界的な半導体不足があるようだ。
SNSでは「6月のうちに買っておけば良かった」「iPhone14はもっと高くなるの?」など不安の声がいくつも挙がっていた。これを受けてか、今、中古のiPhone需要が高まっており、中古ショップではiPhone商品の品薄・高価買取りが行われているという。
そこでITジャーナリストの西田宗千佳氏に、今回のようなiPhoneの値上げが今後も行われる可能性についてや、値上げを受けてiPhoneユーザーがAndroidに乗り換える可能性があるのかなどについて聞いた。
過去に前例がない振り幅の激しい円安で、高騰が続くiPhone
まず今回の値上げで、各機種がどれくらい値上がりしたのか。
「昨年発売されたばかりのiPhone13(128GB)は、9万8800円(税込、以下同)から11万7800円に値上げ。iPad(第9世代、64GB)は、3万9800円から4万9800円に値上げ。AirPods Proは3万580円から3万8800円に値上げしており、主力商品のスマホやタブレットの値上がり率がやはり高いですね。
なかでも値上げ幅が1番大きかったのはiPhone 13 Pro Max 1TBモデルで、19万4800円から23万4800円に値上げしており、4万円も差が出ています。当然ですがアップル製品は外国製品ですので、円安の時期に日本で購入しようとすると割高になります。
今回レベルの円安は2000年代半ばにも一度あり、Macの値段がかなり上がりました。ですがそのときでさえ1、2年の間にいきなり1ドル130円台に跳ね上がることはなかったので、短期間にこれだけ振り幅が大きい円安というのは、前例がないものです」(西田氏)
円安による値上げ以外の“意外な要因”でも中古が高騰した
こうしたアップル製品の値上げは、中古iPhoneの価格高騰にもつながっているという。
「中古市場のiPhoneは大別すると2種類あります。まずは本当の意味での中古品、つまり前の持ち主がしばらく使用していた状態のもの。そして新品に近い中古品、つまり現金化のために転売屋に購入されたものなど、誰かが使っていたわけではないもの。特に後者は転売屋の仕入れ価格自体が値上げの影響を受けるので、新品に近い状態の良いiPhoneほど中古市場でも価格は上がることになります」(同)
だが、中古iPhoneの価格高騰は、こうした要素だけでは測れない部分があるという。
「iPhoneの中古価格の高騰は、新型が発売されるといった季節要因で変動する場合がほとんどですが、そこに特殊事情が入ることがあります。その特殊事情の例として、6月10日にリリースされたスマートフォンアプリ『Johnny’s Ticket』による影響があります。このアプリは、ジャニーズ事務所がリリースしているコンサート・イベントの入場用のチケット表示アプリですが、iPhoneユーザーはiOS版の推奨環境がバージョン13.0以上、つまり機種でいうとiPhone8以降のモデルとされていたのです。
ですからこれに該当しない古めの機種を所持していたジャニーズファンが中古販売ショップに駆け込み、iPhone8以降の中古機種への乗り換えが増加し、必然的に価格も高騰しました。このような突発的な需要と新品の値上げが合わさると、中古市場の価格帯も総じて上がったまま固定されてしまうのです」(同)
中古価格事情に影響を及ぼしたという「Johnny’s Ticket」だが、公式サイトではAndroid10.0以上でも利用可能とされていた。Android系スマホの中古ニーズは増加しなかったのか。
「中古のAndroid系スマホもジャニーズのアプリの関係で売れました。ですがiPhone市場と違って、Android系スマホの中古価格はこうしたニーズの増加によって一時的には上がるものの、次第に落ち着いていくものなんです。これは、Android系スマホはiPhoneと違い定価販売ではないので、価格が下がりやすい傾向にあるからです。こうした背景もあって、転売屋からするとAndroid系スマホを中古屋に売ること自体が、あまりおいしい商売ではないのです」(同)
ジャニーズアプリ問題があった際に、総じて価格が高い印象のあるiPhoneからAndroid系のスマホに乗り換えるという人が出てきてもおかしくなさそうだが、どうだったのだろう。
「スマホのOSの乗り換えは、操作方法を覚え直さないといけないので、それほど流動性が高くないのです。つまり、iPhoneを買っている人は次もiPhoneを買う可能性が高く、Androidを買っている人は次もAndroidを選ぶ可能性が高いというわけです。
また、国内のiPhoneのシェアはおおむね50%前後だと思いますが、シェアは年齢や男女によっても異なり、ジャニーズファンが多い若年・女性はiPhoneシェアが高くなる傾向があります。そして、この層は特に“スマホならなんでもいい”わけではなく、iPhoneにこだわりを持って選んでいる人が多いでしょう。ですからジャニーズアプリの問題があったからといって、iPhoneからAndroid系スマホに乗り換えるという人は少ないと考えています」(同)
低価格モデルの需要を奪い合うiPhoneとAndroid系スマホ
円安によるiPhoneの価格高騰は、今後も続いていくのだろうか。
「円安は来年の上半期くらいまで続くと考えられるので、影響は引き続きあるでしょう。そのため、今秋発売が予定されているiPhone14シリーズにも影響があるはず。ですが、アップル側もこうした状況でユーザーが離れてくるのを懸念して、iPhone14の一番安いモデルの価格設定は、おそらく今回の値上げ後のiPhone13と同じくらいにすると予想しています。一方ハイエンドモデルについては現行の価格より高くなる可能性が濃厚です。つまり23万4800円以上になるだろうということですね。
これはリーズナブルなモデルの購買層とハイエンドモデルの購買層で、明確に所得格差が生まれていることが原因です。世界的に見て単価の高いスマホは売れにくく、日常生活に必要な機能だけを備えた安価なスマホが多く売れているという状況があります。ですから強気の価格設定でブランディングしているアップルとはいえ、ハイエンドモデルの値上げはできても低価格モデルの値段をこれ以上上げるという判断はしづらいでしょう」(同)
こうした値上げは、Android系スマホでも似たような状況にあるという。
「円安や半導体不足の影響で値上がりする可能性があるのは、Android系スマホも同様です。そもそも、スマホのほとんどは携帯電話事業者を通じて販売されており、中古やSIMフリーの割合は高くありません。そして、携帯電話事業者は『48カ月の分割、24カ月後に本体引き取りで半額』といった販売プランも出してきますので、全体的に高額なiPhoneシリーズと言えど、iPhoneSEやiPhone13ならば、2、3万円のAndroid系スマホと同じような日常出費で買えてしまう。こうした状況を鑑みると、先にお話ししたOSの乗り換えづらさもありますので、やはりそうした大移動は起きづらいでしょう」(同)
円安以外の驚きの要因も絡んでいた現在の中古iPhoneの高騰。いずれにしても、そろそろスマホを買い替えたいというiPhoneユーザーにとっては、出費がかさむ悩ましい状況が続くようだ。
(文=A4studio)