こうした言葉からは、オフィスでの利用や、都会的な人の活用がイメージされる。しかし、クラウドの活用は第一次産業でも進められている。特に農業分野ではすでに活用例も多く、農業をターゲットにしたソリューション【編註:利用者の必要に合わせて複数のサービスを組み合わせた製品】などもかなり登場している状態だ。
●クラウドに集めたデータで育てた「クラウドトマト」
農業分野でのクラウド活用事例として有名なのが、「クラウドトマト」だろう。明治大学が川崎市内に所有する農場で取り組んでいるトマト栽培だ。
センサーでビニールハウス内のさまざまなデータを取得し、そのデータをクラウドサーバに蓄積する。これを基に、タブレット端末などを活用して分析を行い肥料の量を決定するなど、効率的に高品質なトマトを栽培する。
単純に、「気温が何度上がったら、どう対応する」というようなデータとその対応を直結させてしまう工場方式ではなく、人がデータを活用して対応を決めるということが大きなポイントになっている。さらに、タブレットから指示を出すだけで、畑に行って人の手で直接肥料をまかなくても、自動で調整できる仕組みにもなっている。
従来的なやり方だと「最近は雨が多いから……」「夏が暑い年は……」という具合に、先人たちの経験に基づく知恵が大きな武器だった。これを「見える化」してクラウドに蓄積し、品質と効率を向上させるのが狙いだ。
●対応と結果を分析して次に生かす
最近ではセンサーを多用し、IT技術によって効率的な生産に取り組む事例も増えてきている。わかりやすいところでは、畑から離れていても、降雨量や日照時間、土中の水分量がどの程度あるのかがわかるというものがある。
そこから「クラウドトマト」の事例のように、分析して対応を画面上から指示するだけで、すべての畑で実行できるようにする。さらに日照時間や降雨量と対応、できあがった作物の品質などを分析した上で次年度への対策に反映させてゆけば、年々より効率よく高品質なものがつくれるようになる。
大量の情報を蓄積することができ、モバイル端末などを利用して外出先や別の拠点からでもデータを参照できるため、クラウドを活用すると、より仕事がしやすくなるというのはホワイトワーカーと変わらない。
農業分野をターゲットとしたITソリューションとしては、以前から受発注や流通関連の部分を効率化するものが豊富にあったが、最近は生産サポートやノウハウの継承、後継者育成などに力を入れたものも出てきている。代表的なものとしては、富士通の提供する「FUJITSU Intelligent Society Solution食・農クラウド Akisai(秋彩)」があるが、今後はこうした新しい活用方法も注目されてゆくだろう。