5月1日に3月のCPI(消費者物価指数)が発表され、日本銀行が政策目標の基準としているコアCPI(生鮮食品などを除いたCPI)は、前年同月比+2.2%となった。消費税引き上げの影響分とされる2%を差し引くと、実質的には+0.2%となる。
現在の日銀総裁である黒田東彦氏が就任したのは、2013年3月20日だ。当時、公約として「2年程度の期間を念頭に置いて、できるだけ早期」にコアCPIの上昇率2%を達成すると語ったが、結局は達成されなかったことになる。
4月30日に発表された、日銀の金融政策のベースとなる経済・物価情勢の展望(展望レポート)では、コアCPIの前年比(消費税引き上げの影響分を除く)は、当面0%程度で推移すると見られる、と修正された。さらに、政策目標の2%程度に達する時期は、「原油価格の動向によって左右されるが、現状程度の水準から緩やかに上昇していくという前提であれば、16年度前半頃になると予想される」と、大幅に先延ばしされている。
日銀が2年程度を達成目標としてコアCPI上昇率2%を打ち出してから、その予測は外れ続けている。しかし、コアCPIの大幅な低下や長期の低迷を的確に捉えている指数がある。それが、「東大日次物価指数(以下、東大指数)」だ。
コアCPIと乖離する「東大指数」
東大指数は、東京大学大学院経済学研究科の渡辺努教授と渡辺広太氏が開発した、新しい物価指標だ。
東大指数は、スーパーマーケットのPOSシステムを通じ、全国約300店舗で販売される商品について日々の価格や販売量を収集している。調査対象は20万点以上の食料品や日用雑貨などだ。購買取引の行われた日の翌々日までにデータを収集し、物価指数を作成、公開している。
この東大指数と、総務省が公表しているCPIの結果には、大きな乖離がある。CPIの中で東大指数がカバーする商品だけを取り出したデータと、東大指数を比較すると、1月のCPIは+0.44%に対して、東大指数は-0.39%、2月はCPIが+0.41%に対し、東大指数は-0.48%となっている。
この違いについては、さまざまな要因が考えられる。まず、CPIが幅広い商品およびサービスをカバーしている一方、東大指数の対象範囲はCPIの約17%となっていることが挙げられる。
また、企業の価格戦略により、お菓子の減量などによる実質値上げや、洗剤の増量キャンペーンによる実質値下げなどが行われることがある。この場合、POSシステムの商品コードの変更が伴うため、東大指数では品質の変化に伴う価格変化は反映されない。しかし、CPIでは調査品目に内容量等の変更による実質の価格変動が発生した場合、実態に応じて品質調整を行い、価格変化に反映させている。