昔の話になるが、在阪人気プロ野球球団のエース・ピッチャーが、「ベンチがアホやから、野球がでけへん」と言い放って監督以下のマネジメントを批判したことがあった。同様の思いを持つサラリーマンなどの間で、これは大いに共感を呼び、流行した台詞となった。
130兆円を超す日本の公的年金(厚生年金と国民年金)の積立金を運用するGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用スタッフは今、件のピッチャーと似た気分になっているのではないか。
報道によると安倍晋三首相は9月27日(日本時間28日)、国連サミットの全体会合における演説で、投資先を決める際に環境(Environment)、社会(Social)、企業統治(Governance)に配慮した企業を選ぶように求める国連の「責任投資原則」に署名したことを明らかにしたという。
俗に、これら3点に配慮して投資銘柄を選ぶ投資のことを「ESG投資」と呼ぶ。GPIFは公的年金積立金の運用に、どの程度の金額か現時点では不明だが、ESG投資を行う運用を採用することが求められることになりそうだという。
GPIFは昨年、安倍政権の意図を汲んで、株式と外貨資産の投資比率を大きく引き上げる運用計画を策定し、着々とリスク資産の投資を増やしてきた。この際、リスクへの考慮を行う以前に、いきなり目標とする投資収益率を決めるような、運用の常識から外れた厚生労働大臣の指示(実際には厚労省年金局が愚かだ)に従って、運用計画をつくることを余儀なくされた。
首相がオーナーで、厚労省年金局長が監督なのか、正しい比喩は難しいが、運用現場の専門家達にとって「ベンチがアホ」であることはまことにお気の毒だ。
国連は、ESG投資の原則を2006年から導入している。この点に関して国連はまったく賢くないが、ビジネスと社会運動を絡ませた連中が一枚上手だったということだろう。わが国の首相の考えは、ESG投資が「持続可能な開発の実現に貢献することになる」というもののようだ。
「必ず劣る運用」
安倍首相の理解レベルを推測すると、日本の公的資金の投資が、E・S・Gを意識することは、海外から褒められるような麗しい話だと心から思ったのだろう。恐らく悪意、たとえばESG投資を商売とする連中に協力するような意思はない。投資や運用業界に詳しいと自認する側近に、「海外ではESG投資が注目されています」というくらいのことをいわれて、真に受けたのだろう。
現実のESG投資の実行方法には、個々に細かな差があるが、概ね環境に負荷を掛けるようにビジネスを営む企業、社会的に望ましくないことをビジネスにする企業、ガバナンスが悪いとされる企業などの株式や社債に対する投資が、除外ないし抑制されるような資金運用が行われる。