過去1年分を見ると、163億米ドルがシンガポールの非居住者の外貨預金口座となっていた。米中貿易戦争に嫌気した外貨流出で、香港住民だけではなく香港に預金してきた中国共産党幹部らのカネも移動した。香港の騒擾により将来へ不安を抱き、とりあえず余裕資金を外国に、それも香港と同じ国際金融都市であるシンガポールに移管する。あるいは、マレーシアやタイの不動産購入に走っている。
日本の論議を眺めると、香港がダメになると国際金融都市は深センに移行すると推定たくましき軽率なエコノミストがいる。しかし、情報に透明性のない市場に世界の投資資金は流れない。
巨額のデフォルト、金融恐慌の予兆も
中国経済が抱える債務膨張は天文学的数字で、企業破産は18年上半期だけで504万社だった。国有企業は別名「ゾンビ」。巨大債務のなかでも中国企業がドル建てで外国銀行、投資家から調達した借金の年内償還は350億ドル。20年末までが320億ドル。償還が危ぶまれ、欧米金融機関は貸し出しに極めて慎重な姿勢に転じた。
19年8月段階で、希望した中国国有企業の起債は20%に達しなかった。すでに2年前からドル建ての中国企業の社債にはNY、ロンドン、そして香港で2%以上の「チャイナ・プレミアム」が付いていることは周知の事実で、不動産関連企業の中には14%の高利でもドルを調達してきたところがある。
デフォルト(債務不履行)の金額もすごい。18年だけでも1200億元(170億ドル)。19年は9月までの速報でも900億元(128億ドル)。とりわけ注目されたのは、最大最強の投資集団といわれた「民投」(中国民生投資)が債権者を緊急に集めて1年間の償還延期を承諾してもらったことだ。
昇龍の勢いだったスマートフォン、自動車の販売にも陰りが見え、5Gの先行商品発売にもブームは起こらず、製造業はすでにベトナム、カンボジアなどに移転している。産業別では空洞化が起こっている。
19年5月24日、中国は内蒙古省が拠点で倒産寸前だった「包商銀行」を国家管理にするため89%の株式を取得、国有化した。金融パニック誘発前の予防措置である。中国銀行保険監督管理委員会(CBIRC)が「公的管理」し、債務は元本の30%削減という措置をとった。心理恐慌の拡大を懸念した中央銀行は6月2日になって「これは単独の案件であり、金融不安は何もない」と発表した。