10月26日付の本連載記事『米国がデフォルト危機!年内にも世界恐慌に発展?綱渡り状態で、オバマ大統領は制御不能』では、米国政府が(1)2016年度予算、(2)高速道路信託基金、(3)債務上限という財政の三重苦に陥っていることを指摘した。
10月から始まる新財政年度に16年度予算の成立が間に合わず、現在は12月11日までの暫定予算でつないでおり、それまでに16年度予算を成立させないと政府機関の一部閉鎖が発生することになる。同様に公共事業費の中核である高速道路信託基金の根拠法の延長を行わないと、高速道路を中心とした公共事業がストップする。米国債の発行上限(債務上限)が近づいており、上限を引き上げないと米政府は資金調達ができず、まさしく国債の元利払いが停止するデフォルトに陥るという内容で、冒頭の記事は読者に関心を持っていただき、非常に大きな反響があった。
これだけ読者が関心を持っていただいた事柄を書きっ放しでは、ただの“お騒がせメディア”となってしまうので、続報をお届けする。なんと、この米国政府が抱えていた財政の三重苦はすべてが“ほぼ”解消したのだ。
10月27日、突如オバマ大統領と民主党、共和党の上下院トップとの予算合意が「2015年超党派予算案」というかたちで発表された。その後、この法案は10月28日に下院、30日に上院で可決され、11月2日に大統領の署名をもって成立した。
財政赤字の削減を先送り
なぜ、このような突拍子もない事態が起きたのか。
それは、この予算案が与野党の要求を“丸飲み”したような内容のためだろう。この予算案の主要な部分は、16年度、17年度の予算枠と債務上限の適用について決めている。米国では毎年、「裁量的経費」についてその歳出額を決める必要がある。裁量的経費の中心は国防費なのだが、国防費の拡大を求める共和党と、非国防費の拡大を求める民主党が対立する。
しかし、15年超党派予算案では、「国防費」と「非国防費」をともに拡大させた予算案を打ち出した。このため、「財政赤字の削減」については先送りをし、予算を大幅に拡大した。つまり、財政赤字を削減するどころか、拡大する可能性がある予算案となった。
さらに、債務上限については、具体的な金額も設定することなく、17年3月までその適用を先送りした。つまり、政府は債務上限を気にすることなく、米国債を発行して資金調達ができるようになったのだ。
これは、財務の健全性に目をつむり、良いとこ取りをしたかたちで予算案をつくったということ。結果的に財政の三重苦を一括処理したかたちとなり、米国政府が抱えていた財政の三重苦は“雲散霧消”したのだ。
今回の劇的な予算成立の影の立役者は、ジョン・ベイナー下院議長(共和党)だろう。ベイナー議長はデフォルトを政争の具としている共和党保守派を強烈に非難し、10月末で下院議長を辞任し、政界からも引退すると発表。自らの進退と引き換えに関係者の協力を促した。日本にも、これぐらい気概のある政治家が出てきてほしいものだ。
さて、米国政府が抱えていた財政の三重苦は、すべてが“ほぼ”解消した、と前述したのは、まだ予算審議として歳出法案を成立させる必要があるため。もし、暫定予算の期限である12月11日までに歳出法案が成立しないと、この予算は“水泡に帰す”。しかし、これだけの右往左往の挙句、ベイナー下院議長の政界引退という犠牲まで出しているのだから、まず間違いなく歳出法案は成立すると思うのだが。
(文=鷲尾香一/ジャーナリスト)