増税を税率だけで議論するのはナンセンス
まず、税収弾性値というものがある。これは、経済成長によって税収がどの程度増えるのかを示す数字だ。国内総生産(GDP)が1%変化して税収も1%変化すれば、税収弾性値は「1」となる。また、この数字が高いほど、経済成長による税収増と財政再建の効果が大きく見込めるといわれる。
現在、政府は税収弾性値を1.12としているが、これについて「低すぎる」という意見もある。景気悪化時でも、税収弾性値は1.12以上あるといわれているからだ。
新興国では1.1などの数字でもおかしくないが、日本のような先進国では、少なくとも1.3~1.4はあるのではないかといわれている。そのため、この税収弾性値を見直すことによって、今後の増税に関する議論も変わってくるものと思われる。
そして、中長期的な視野で見た場合、直間比率の問題があるのも事実だ。これは、税収における直接税と間接税の割合である。
まず、所得税や法人税などの直接税は景気に左右されやすい税金であり、特に法人税はその傾向が強い。ただし、所得税でも、給与所得者についてはほとんど景気に左右されないため、給与所得者の所得税は安定税源として考えられている。
しかし、個人事業主の所得税や法人税に関しては、景気による変化が大きい。そうした税源に頼ることは、景気の変化という大きなリスクを抱えることになる。同時に、給与所得者中心の税制ということになると、少子高齢化による労働力人口の減少を迎えるなかで、現役世代の負担が大きくなりすぎるという意見もある。
一方、高齢者は年金収入などに頼るケースが多いため、所得としては少ないものの、多額の財産を持っている人が多い。そうした状況下で公平な税制を考えた場合、間接税である消費税を増やすという選択肢が視野に入るのも確かだ。
生活必需品を中心とした一定の購買というのは、ある程度は景気動向に左右されることがない。そのため、消費税というのは安定した税源として期待できるわけだ。同時に、消費量は所得に応じて変わるため、高齢者や富裕層などからも、まんべんなく税金を徴収することができる側面もある。
しかし、消費税には、低所得者ほど負担率が高くなる逆進性の問題もある。だから、消費税増税にあわせて低所得者への給付金支給案などが出ていたわけだ。
また、もうひとつの考え方として資産課税がある。高齢者のように低所得だが高資産を持つ人々から、どのように税金を取るかと考えた時、この資産課税がひとつの手段となるだろう。しかし、資産に高い税率をかけると必然的に不動産価格の下落を招き、資産デフレを起こしやすくなるという欠点もある。
ただでさえ低金利が続くなか、金融資産に高い課税をするというのは、現実的には難しい。税源の問題というのは、こうしたさまざまな状況や選択肢のなかで存在するわけで、その本質的議論なしに、消費税の%の数字だけで議論するのは好ましくない。
本来、国会においては「公平な税制を進めるために、何が適当であるか」という本質的な議論をもっと進めてほしいものである。
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