6月1日、安倍晋三首相は記者会見を開いて2017年4月に予定されていた消費税増税を2年半延期し、19年10月からとすると発表した。
これに先立ち、安倍首相は第42回主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)後の会見で「世界経済が通常の景気循環を超えて危機に陥る大きなリスクに直面しているという認識について、一致することができた」と発言、内閣官房副長官の世耕弘成氏も、記者に対して「(安倍首相は伊勢志摩サミットで世界経済の現状を)リーマン・ショック前に似ている、と発言した」と説明した。
その後、「リーマン・ショック前」の部分について「言った、言わない」の議論が交わされているが、その真偽はともかく、このやや大げさな表現は国際社会で黙認されたといえる。
世界各国は、この現状認識に対して首をひねりながらも、サミットの議長国である日本の表明ということで、表立って異を唱えることができなかったからだ。
つまり、安倍首相が消費税増税再延期の条件としていた「リーマン・ショック並みの経済危機」は国際的に暗に認められたかたちになり、必然的に再延期の発表となったわけだ。これは、筆者が本連載の過去の記事で唱えたシナリオ通りだったといえるだろう。
この増税再延期であるが、安倍首相は昨年12月あたりの時点で決めていたのではないかといわれている。14年4月に実施した5%から8%への引き上げの影響が予想以上に大きく、安倍首相は「アベノミクスを腰折れさせてしまった原因は、この消費税増税にあった」と思っているからであり、実際にそういった旨の発言もしている。
そのため、春頃から、増税再延期に対するアドバルーン発言が上がり始めた。安倍首相に近い筋では、内閣官房参与(現在はスイス駐箚特命全権大使)の本田悦朗氏が再延期を訴えたほか、アメリカの経済学者でノーベル経済学賞受賞者のジョセフ・E・スティグリッツ氏を招いて「現在のタイミングでは消費税を引き上げる時期ではない」という見解を引き出している。
政府が世論形成に努める一方、予定通り増税を実施したい財務省側は、政治家など各方面に圧力をかけ続けていたことも確かだ。そのため、財務省の息のかかった経済学者などは、常に「増税再延期は反対」を言い続けていた。
こうして見ると、今回の増税再延期をめぐる構図がよくわかるだろう。しかし、本来は「そもそも、本当に消費税増税が必要なのか」という本質的な議論もしなくてはならない。
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