3月21日にリニューアルオープンした宮城県多賀城市立図書館。レンタル大手・TSUTAYAを展開するカルチュア・コンビニエンス・クラブ(CCC)が運営するツタヤ図書館として知られているが、開業から2カ月で30万人もの来場者があったと報道されている陰で、当サイトが何度も報じてきた通り、その運営方法において次々と新たな疑惑が生まれている。
今回は、リニューアルオープン時にCCCから市教委に提出された追加購入の選書リスト約3万5000冊のうち「中古」と明記された1万3000冊の中身について、詳しくみていきたい。
前回記事『ツタヤ図書館、廃棄した本より「古い実用書」大量購入が発覚!多額税金使いCCCの言い値で』では、1万3000冊のうち「料理」が2620冊(20.1%)、「美容・健康」が2146冊(16.5%)、「旅行」が1218冊(9.4%)、「住まいと暮らし」が1091(8.4%)となっていて、この上位4分野だけで、全体(古本)の半数以上を占めることを指摘した。
しかも、それらの本がことごとく刊行年が古いものを含んでいることが判明している。これら分野別に刊行年を調べたところ、この手の分野としては、ほかの図書館なら、すでに除籍(廃棄)処分にされていてもおかしくないほど古い、5年超を経過した本を大量に含んでいる。
いったい、なぜこのような事態に至ったのだろうか。
旧来の図書館が、どちらかといえば長く読み継がれる、文学や自然科学、社会、教育など、いわば「鮮度を重視しない」本に重きが置かれていたのに対して、多賀城市立図書館では新装開館にあたって、あえて「鮮度が命」である生活・実用書に大きくシフトしたからといえる。
その方針決定の源流をたどっていくと、多賀城市教育の「選書基準」(2015年4月10日多賀城市教育委員会教育長決定)に行き着く。同基準では、「図書館を利用したことがない方でも入れやすい雰囲気づくりをするために」、また「本を介して人々がつながるコミュニティ空間を創るため、以下のジャンルから重点的に選書する」として、「料理」「旅行」「実用書」「児童書」を重視するとしている。
つまり、この基準に沿ったことでCCCの選書に「料理」や「旅行」などの生活・実用書が多くなったのだ。
しかし、それならば「鮮度が命」の生活・実用書は、中古ではなく最新のものを取り揃えるべきではなかったのか。
たとえるなら、「果物を豊富に取り揃えて集客する」と宣言した食料品スーパーマーケットが、一部意図的に腐りかけの果物を安く仕入れ、見かけだけ果物を多く並べているようなものだ。
もし予算が足りなかったのであれば、少しずつ追加購入していけばよいのに、一度に購入して蔵書の豊富さをアピールしようとしたのだ。そのため、鮮度の悪さが余計に目立つ結果となった。
予算は潤沢だった
前述の選書方針のなかで唯一、「児童書」だけはほとんど新刊を購入しているが、児童書より鮮度が重要な「料理」や「旅行」は、中古に頼るのはなぜか。実は、児童書は状態の良いものがあまり中古市場に出回らないのだ。それに比べて、実用書は鮮度が重要だからこそ、発売から短い期間で中古市場に出回るようになる。そのため、新古書も含めて、外見だけをみれば比較的状態のいいものが大量に見つかる。購入費用を安くしようと思えば、いくらでも中古で調達できる。
ちなみに、昨年10月に新装開館した神奈川県海老名市立中央図書館でも、CCCが市に提出した8300冊の選書リスト中、なんと約半数にあたる4137冊が「料理」だったことが判明し、その異様に偏った選書に非難が集中した。
図書館を新しく建築して移転した多賀城市立図書館は、建設費用等が膨らみ、図書購入費用が足りなくなり、仕方なく中古にしたのだろうか。
多賀城市立図書館の移転計画の詳細をみると、追加蔵購入にあたって図書購入費だけで5250万円(1冊当たりの平均単価1500円×3万5000冊)、装備も含めた「図書・資料蔵書整備」費用全体としては7300万円の見積額が提示されている。
さらに、移転する前の市立旧図書館の予算を見てみると、昨年11月に閉館したため実質稼働8カ月だったにもかかわらず、15年度は前年と同額の1300万円の図書購入費用が計上されていた。それも含めると、多賀城市立図書館に関して同年度中に8600万円もの予算を図書館の蔵書整備に費やせるようになっていた。
この状況に照らして考えると、極めて潤沢な予算といえ、少ない予算に合わせて蔵書を整えたわけではない。
事実、当サイト記事『ツタヤ図書館、小中学校で実質的なTカード勧誘活動を展開…教師は説明受けず憤慨』でも指摘したように、多賀城市立図書館では総額600万円もの費用をかけて、全国のほかの図書館でも導入実績の少ない「読書通帳システム」を導入している。1冊平均2000円の新刊を3000冊も余分に買える予算だ。
「売れ残り」の中古本を大量購入の謎
しかし、追加購入蔵書については、1万3000冊もの中古本を購入して費用を圧縮したのは、なぜなのか。
蔵書の中古購入について、市側から市民に対して詳しい説明は一切なく、前出の「選書基準」の末尾には、「購入方法」と題した以下の一言が添えられているだけである。
「限られた予算のなかで、より多くの資料を整備することから、新刊に限らず新古書等の中古本による購入も含めて整備すること」
新刊で購入しようとしているのと同じ図書を、より安く仕入れるために中古本で購入したのであれば、それは税金を有効に使っているといえ、歓迎すべきことと考える人もいるだろう。
だが、CCCによる中古本の選書実態を詳しくみていくと、そんな淡い期待はもろくも崩れ去る。
なぜならば、今も店頭に並んでいる商品を安く仕入れるために中古本が選書リストに掲載されているわけではなく、もはや店頭からもすっかり姿を消してしまった「型落ち商品」ばかりが大量にリストアップされているからだ。また、かつてのベストセラーや、すでに廃刊になったが利用者から取り寄せ希望が多い本を購入しているわけでもない。市民からすれば、たとえ古くても読みたい本はあるはずだが、その要望に応えたというわけでもないことがわかる。
たとえば、一般的にベストセラーは古本での流通量も多く、簡単に購入できる。選書リストは、まるで「売れ残りリスト」のごときものなのだ。
そのように利用者の利便性を考慮しないリストになった理由として考えられるのは、ひとつには前回記事でも指摘した「不透明な公金支出」問題がある。そしてもうひとつ、新刊書店を併設したツタヤ図書館の構造的な問題も関係していると考えられる。
昨年10月、多賀城市立図書館と同様にCCCが指定管理者となって新装開館した神奈川県海老名市立中央図書館では、新聞広告や書店のポスターなどで話題となっている新刊がまったく購入されず、来館者が肩を落とすケースが続出した。そして、図書館には求める本が入らない一方で、併設された蔦屋書店では魅力的な新刊が多数販売されているのだ。
「東京の図書館をもっとよくする会」の池沢昇氏は、図書館問題研究会機関紙「みんなの図書館」(2月号)記事、『海老名市立図書館の選書リストの分析』のなかで、実に興味深い分析を披露している。
海老名市立中央図書館のリニューアル時に合わせて出された8343冊の選書リストには、2015年刊行の最新の106冊ですら「ベストセラーなし、ノベルなし、政治なし、経済なし、売れ筋本なし」の傾向がみられるという。そして「蔦屋書店では、市民・顧客の求めに応じた品揃えを図り、図書館では市民・顧客の求めを無視した資料収集」と厳しく非難している。
仮に蔦屋書店で、図書館と同じラインナップの品揃えをしたならば、3日ももたずに潰れるだろうと分析し、図書館にダメージを与え続けて崩壊させようとしているかのようだと語っている。
市教委とCCCで激しい争いか
潰そうとしているか否かは別にして、ツタヤ図書館には新刊書店が併設されているため、図書館に魅力的な新刊を並べてしまうと、書店の売り上げに影響しかねないという実態がある。
そこで、中古書店側が「倉庫で眠っているもの、残しておきたくないもの」を図書館がまとめて引き取ったというのが実態ではないかと池沢氏は推測する。
多賀城市の場合、海老名市とは違って約2万冊の新刊も同時に選書しているため、必ずしも前記したような新刊の仕入れを渋っているとはいえないが、少なくとも1万3000冊の中古本については、このように中古書店側の事情を「考慮した」選書の可能性は大いにある。
ただし、多賀城市に関しては、全国初のツタヤ図書館の武雄市立図書館、海老名市立中央図書館の場合とは違う傾向もみてとれると、池沢氏は語る。
「多賀城市の中古書の選書は、職員が中古書センターに足を運び、仕入れたい本をその場で選んだ可能性が高いです。仮にカタログで注文した場合、実際に購入する時点では品切れになって納本できないこともよくあるのですが、多賀城市立図書館には選書リストに掲載された本がほぼすべて納入されています。したがって、武雄市、海老名市ほど、資料的価値のない本を押しつけられたという感じはありません」
実は、多賀城市の選書リストの時系列データを詳しく分析すると、市教委サイドとCCCが激しい主導権争いを繰り広げていた様子が見てとれる。
多賀城市は、結果的にはCCCの選書を概ね受け入れながらも、まったく別のルートで独自に蔵書を整備しようとしていた実態もわかってきた。
次回、その核心に迫っていきたい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)