韓国・朴槿恵大統領の妹、朴槿令(クンリョン)元育英財団理事長が、ソウル中央地検から詐欺容疑で捜査されていると複数の韓国メディアが報じました。
地検は詳細を明らかにしていませんが、聯合ニュースによると、槿令氏は1億ウォン(約900万円)の借金のうち一部を返済できず、詐取したとみなされているようです。槿令氏は昨年12月に、自身の管理する財団の駐車場賃貸契約金名目で数千万ウォンを詐取した罪に問われ、500万ウォン(約45万円)の罰金刑が確定しています。
韓国では、大統領の在任期間満了が近づくと、大統領の親族や側近が逮捕されるという流れが定番化しつつあります。そのため、「クリーンさをウリにしてきた朴大統領もカネの問題が噴出する兆し」と見るむきも少なくないようです。
しかし、今回の事案が歴代の汚職と趣を異にしているのは、槿令氏が大統領の権力を傘にきて賄賂を受けているわけではないという点です。
むしろ槿令氏は、朴大統領との不仲がたびたび報じられてきた人物です。昨年には、慰安婦問題に関して「日本に謝罪を要求し続けるのは不当」と語り、日本の政治家による靖国神社参拝について韓国が批判するのは「内政干渉」だとして日本を擁護しました。そのため、韓国メディアや世論から激しい非難を浴びました。
また、公然と「私たちは親日をしなければ(ならない)」と言うほどの親日家です。反日によって国民の支持を得ている朴大統領にとっては、いわば敵対的存在です。その槿令氏が地検から捜査を受けているため、「反日勢力による陰謀」との説もあります。
他方、大統領所属特別監察官室の特別監察官が大統領の側近2人に対しても取り調べを行ったとの報道もあり、にわかに大統領周辺が慌しくなっています。
韓国の法律では、特別監察官の監察対象は大統領の配偶者及び4親等以内の親族、大統領秘書室首席秘書官以上の公務員と定められており、監察官が刑事処分の必要があると判断すると刑事告発します。
暗殺、逮捕、自殺、家族の死…悲運だらけの韓国大統領
韓国では、歴代大統領が在任後期から退任後に悲惨な人生を送ることが運命的です。参考までに歴代大統領の退任前後を見てみると、下のようになっています。
初代~第3代大統領の李承晩氏は4選を決めた後、不正選挙があったとして国民が蜂起し、米ハワイへ亡命した。養子で長男の李康石は一家心中した。
第4代の尹ボ善氏は、大統領辞任後に野党の総裁となったが、政府から「憲法秩序を破壊しようとした」として立件され、実刑判決を受けた。
朴槿恵大統領の父で第5~9代の朴正煕氏は、親日政策に不満を持つ側近に暗殺された。妻も射殺されている。
第10代の崔圭夏氏は、軍事クーデターにより職を追われ辞任している。
第11~12代の全斗煥氏は、不正蓄財や粛軍クーデター・光州事件等の追及を受けて退任し、死刑判決を受けた。その後、無期懲役に減刑され、特赦によって解放されている。
第13代の盧泰愚氏は、数百億円も不正に蓄財していたことが発覚し、粛軍クーデター・光州事件の追及により退任、軍刑法違反で懲役刑を受けた。後に特赦により解放されている。
第14代の金泳三氏は、次男が利権介入による斡旋収賄と脱税で逮捕。自身は、通貨危機によって国際通貨基金(IMF)に援助を要請したことが国民に恥辱を与えたとして不興を買い、空港でペンキを顔にかけられる事件があった。国内での評価は今でも悪い。
第15代の金大中氏は、3人の息子全員が賄賂で逮捕されている。
第16代の盧武鉉氏は、税務職員だった兄が収賄で逮捕され、自身も在任中の収賄疑惑により退任後に捜査を受け、その後自殺。逮捕が迫っていたことを苦にした自殺ともいわれている。
第17代の李明博氏は、実兄が収賄で懲役刑になったほか、親族では甥、姪の夫、妻の姉の夫、妻の姉の夫の弟などが賄賂などを受けて有罪判決を受けた。ほかにも、数十人規模の側近が収賄の疑いで捜査を受け、その多くが逮捕された。大統領府政務首席、大統領府広報首席、「李明博大統領ファンクラブ」会長も収賄で懲役刑を受けている。
そして、第18代の朴槿恵大統領。
このように、歴代の大統領とその周辺に汚職や不幸が起きる「黒い歴史」から、逃れることはできるのでしょうか。再選が困難と見られる朴大統領が、今後どのような歩みをするのか注視したいと思います。
(文=林秀英/ジャーナリスト)