新型コロナウイルスの感染拡大による緊急事態宣言と、それに伴う外出自粛や休業要請により交通量が減少し、高齢者の交通事故多発問題はすっかり影を潜めていた。ところが6月15日、千葉県船橋市で82歳の男性が運転する乗用車が女性2人をはね、ビルの1階に突っ込む事故を起こした。そこで、高齢者の交通事故を改めて検証したところ、意外な事実が判明した。
新型コロナの影響により今年1~4月の交通事故発生件数は劇的に減少している。
<月別交通事故発生状況>
発生件数 前年同期比
1月 2万7523人 -3841人(12.2%減)
2月 2万7443人 -2620人(8.7%減)
3月 2万7763人 -5932人(17.6%減)
4月 2万0805人 -1万1827人(36.2%減)
2019年4月に東京都豊島区池袋の交差点で発生した、当時87歳の男性が運転する乗用車が、わずか3歳の子どもとその母親をはね死亡させ、多数の負傷者を出した事故は大きな社会問題となり、高齢者の運転免許制度のあり方に大きな波紋を投げかけた。メディアでは高齢者の運転免許証返納が話題として取り上げられ、実際に高齢者の運転免許更新時の検査は一段と厳しいものになった。
ところが、高齢者の交通事故を詳細に調べてみると、意外な実態がみえてくる。原動機付自転車以上の運転者が第1当事者となった交通事故件数の推移と、65歳以上の高齢者の事故の割合は、以下のようになっている。なお、第1当事者とは、最初に交通事故に関与した事故当事者のうち最も過失の重い者を指す。
<原付以上運転者(第1当事者)の交通事故件数の推移>
2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
51万0050件 47万4776件 44万7089件 40万6755件 35万7821件
<65歳以上の高齢者の事故割合>
2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
19.7% 20.4% 21.3% 22.1% 23.3%
これでわかるように、交通事故件数は年々減少をたどっている一方で、65歳以上の高齢者の事故割合は、年々上昇している。これが高齢者の運転は危険だと指摘されている根拠でもある。
24歳以下は85歳以上よりも事故件数が多い
だが、より詳細にデータを検証すると、別の姿が見えてくる。
<原付以上運転者(第1当事者)の10万人当たり交通事故件数の推移>(単位:人)
2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
65歳以上 588.0 547.9 523.1 483.3 441.9
―以下、各年齢層別―
65~69歳 510.5 488.9 478.4 438.4 399.1
70~74歳 597.6 545.4 497.6 458.6 413.3
75~79歳 662.0 600.8 581.8 533.3 495.1
80~84歳 740.0 683.8 630.5 604.5 546.7
85歳以上 811.3 744.1 712.2 645.9 616.0
全年齢層 620.9 577.5 543.5 494.1 435.5
16~19歳 1888.8 1822.2 1649.9 1489.2 1251.4
20~24歳 1144.9 1070.1 979.7 876.9 754.5
25~29歳 814.1 752.7 697.4 624.0 528.0
以上より、65歳以上の10万人当たり交通事故件数は年々減少していることがわかる。特に、全年齢層の平均件数と比較するとわかるように、74歳以下の高齢者は全年齢層を下回る事故件数となっている。
では、29歳以下の年齢階層別の件数をみてみると、すべての年齢層で全年齢層を上回る事故件数となっている。特に24歳以下は85歳以上よりも事故件数が多く、事故を起こす確率が高いということだ。以下は、65歳以上の運転免許保有者数の推移だ。
<65歳以上の運転免許保有者数>(単位:人)
2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
1710万0846 1768万0387 1818万3894 1863万4865 1885万1637
高齢化の進展とともに、65歳以上の運転免許保有者は増加の一途をたどっており、今後も増加が続くだろう。一方で“若者の免許離れ”がいわれるように、若年層では免許保有者数が減少している。
それでも、74歳以下の高齢者の事故件数は少なく、“優良ドライバー”であることがわかる。高齢者と一括りにするのではなく、事故発生件数の多い年齢層である24歳以下や、75歳以上という対象を明確にした上で、きめ細やかな対策を取っていく必要があるのではないか。