新型コロナウイルス感染症の拡大、それに伴う経済縮小に加えて、今年は凶作になるかもしれない――。Twitter上のそんな投稿が注目を集めている。全国の約3割のコメを生産する東北地方の農家も一様に「今年の気候はおかしい」と首をかしげる。
山背が居座り、笹の花が咲く
話題になっているのは、岩手県釜石市のマタギという人物が20日午後10時44分に投稿した次のようなものだ。
「岩手県の百姓たちが『今年は冷夏になる』と口を揃えて言ってる。
何でも、経験則的に、この時期まで本格的な山背がしつこく居座り、7月までに台風が10個以上発生していない年は、過去必ず冷夏になったとのこと。今年はまさにそれだと。
話半分に聞きたいものだが、気になる発言だ」(原文ママ、以下同)
「そういや今年は、やけに早池峰山に近づく度に雨が降ると思っていた。沿岸の百姓たちは山背の居座り方から、既に『今年はなにかおかしい』ことを察しており、夏の日差しが生育に必要不可欠なスイカは今年は諦めろと言っている。
恐ろしいもんだ。今年ダメになる作物の指南までされてしまった」
「そういや、今年はやけに春〜初夏にかけて、北上山地の全域に『大凶兆』『戦乱や飢饉の前触れ』と呼ばれて恐れられる笹の花が咲いていた。この4枚、全部今年の写真だ。笹の花は60〜100年に1度咲く花で、古来より笹や竹の花が咲く時は天下に大乱あり、大凶の前触れであると言い伝えられてきた」
「山背」とは、夏季に北日本の太平洋側、特に三陸地方に吹く冷たく湿った北東風のことだ。オホーツク海高気圧に由来して奥羽山脈から三陸沿岸に向けて吹き降ろしてくるので、こうした名前がついた。これが長く続くと冷害の原因となる。この投稿は大きな反響を呼んでいて、21日午後1時までに2万5000件のリツイートと引用がなされている。
気象庁は今月9日、「東日本の日照不足と長雨に関する全般気象情報 第1号」を発表。続いて16日には、警戒範囲を拡大し「北・東・西日本の日照不足と長雨に関する全般気象情報 第2号」を発出。「6月25日頃から、曇りや雨の日が多く、日照時間が少なく、降水量の多い状態が続いています。(中略)農作物の管理等に十分注意してください」と、実質的な冷害への注意喚起を連日立て続けに行っている。
農家「不安なのは凶作に伴い離農が進むこと」
釜石市に隣接する遠野市のコメ農家の男性(63)は今年の夏の状況を次のように語る。
「山背の伝承はここいら一帯では有名な話です。確かに今年は少しおかしいと近所でよく話になります。もともと岩手は寒暖の差が大きい地域が多いですが、今年はとにかく寒くて、天気が悪い。7月に入っても平均気温が20度を超えない日が目立つくらいです。みんな気を付けて稲の様子を見ていますが、お天気ばっかりはどうしようもありません。
ただ昔と違ってコメの品種改良も進み、並みの冷夏では凶作にはならないと思います。全国の消費者分に関しては、政府の備蓄米もあります。
一方で、農業従事者の高齢化に伴う担い手不足で以前に比べ、耕作放棄地も増えています。冷夏で凶作が起こった時、今以上に離農に拍車がかからないといいのですが」
東北地方を管轄する仙台管区気象台の担当者は次のように解説する。
「今のところ梅雨明けも遅れている。気温も低く、日照時間が少ない状態が続いています。今後1週間も曇り、雨の予定ですぐにこの状況が解消するとは思えない状況です」
7月はあと10日足らずで終わる。農家に伝わる古き伝承が、杞憂であればよいのだが。
(文=編集部)