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南清貴「すぐにできる、正しい食、間違った食」

今こそ、農業従事者を増やすべきでは?危機的に低い食料自給率改善と失業者救済の提言

文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事
今こそ、農業従事者を増やすべきでは?危機的に低い食料自給率改善と失業者救済の提言の画像1
「Getty Images」より

 本連載前回記事で、日本の自給率を上げるためにも、今現在、失職中の方々にご協力をお願いして、なおかつ政府がある程度の資金を拠出して農業に携わってもらい、場合によってはそのまま農業に従事しようと思ってくださった方々には、特段の配慮をしたらどうか、と提言いたしました。その背景には、失業対策とは別にもうひとつ、理由があります。

 というのは、今後、全世界規模で、しかもかなりの高確率で起こるであろう、食糧難に備えるという政治的課題のことです。

今こそ、農業従事者を増やすべきでは?危機的に低い食料自給率改善と失業者救済の提言の画像2

 以前にも述べましたが、筆者は基本的に政治的な発言をする気は毛頭ありません。立場としても、特定の政党を支持しているとか、ましてや入党しているなどということもありません。

 これも繰り返し述べてきたことですが、今こそ、このことが最重要と思い、あえて申しますが、食は極めて政治的な問題なのです。ただし、最終的には個人の選択に委ねられてもいるのですが、その選択を、ある方向に誘導したり、意図的に選択肢を狭められている現状があるということも、私たちは認識しなければいけません。

 食の問題に限ったことではありませんが、選択肢がたくさんあるということは重要だと思います。また、正しい選択ができるように、あらゆる情報を吟味したうえで公平に提供するというのが、本来のメディアの役割であるはずです。今、メディアは、その役割をまったく果たしていません。そのことを恥ずべきだと、筆者は思っています。世界規模で起きている食料不足について、その現実を正しく報道しているメディアは日本にほとんど存在しませんが、食料不足は着々と私たちの日常に迫りつつあります。

 すでに国連食糧農業機関(FAO)、世界保健機関(WHO)、世界貿易機関(WTO)の3機関は、世界的な食料不足が発生する恐れがあるとの声明を出しています。また、世界食糧計画(WFP)の「世界食糧危機報告」によれば、すでに慢性的な飢えにさらされている8億2100万人に加え今後、1億3500万人から2億5000万人が飢餓状態に陥る可能性があるといわれています。つまり地球上で飢餓に苦しむ人たちの数が、10億人を超えることになるわけです。

 そのような深刻な食糧不足を引き起こす要因として、紛争、景気後退、援助の減少、原油価格の急落などが挙げられているのですが、それを回避するためには迅速な行動が必要だと強調してもいます。私たちは、COVID(コビット)-19によるパンデミックに対応しつつも、同時に飢餓との戦いも制しなければならない状況に追い込まれてもいる、ということです。このままではCOVID-19が招く経済的影響による死者数が、COVID-19での直接的な死者数を上回る危険性があるということなのです。

 分けても、イエメン、コンゴ民主共和国、アフガニスタン、ベネズエラ、エチオピア、南スーダン、スーダン、シリア、ナイジェリア、ハイチの10カ国は、その危険度がもっとも高いと指摘されています。

日本の食糧事情

 では、日本はどうなのでしょうか。今回のCOVID-19の騒動のさなか、農林水産大臣は「食料品は、十分な供給量を確保しているので、安心して、落ち着いた購買行動をお願いいたします」と発言しましたが、その十分な備蓄量とは、米が190日分、小麦は70日分とのことです。筆者が考えるに、この量を十分と判断する根拠がどこにあるのか、理解できません。農水省はこの量で食料供給に問題はないと考えているようですが、筆者は不安を覚えます。

 農水省は以前から「我が国の食料自給率は危機的に低く、しかも年々低下しており、このままでは日本の食料安全保障が危うい」と言ってきたのですが、何がどう変化して、今は大丈夫と言えるようになったのでしょうか。甚だ疑問です。

 現在、インド、ロシアなどの主要穀物生産国が「国内の備蓄を増やすため」という理由で、輸出量を制限し始めました。その動きが東南アジア、および東ヨーロッパの国々にも広がっているのです。いわゆる「食料ナショナリズム」です。

 WFPは「食料の生産国が輸出制限を行えば、世界の穀物価格を引き上げ、食料の輸入に頼る国々に重大な影響を及ぼすことを認識すべきだ」とも述べています。その、食料の輸入に頼る国、とはどこでしょうか。言うまでもありませんが、我が国、日本です。

 懸念点はまだあります。当初、アフリカ東部で大量発生し、穀物類を食い尽くしてしまうと恐れられているサバクトビバッタの大群がケニア、スーダン、エチオピア、ソマリアなどを経て、エジプトからアラビア半島に渡り、イエメン、サウジアラビア、クウェート、UAE、イランなどにも被害をもたらし、今はパキスタン、インドにまで広がり、さらには東南アジアのベトナム、カンボジアなどへと、その被害が拡大する可能性もでてきました。

 賢明な読者の方々は、筆者の憂いが、決していたずらに危機感を煽るようなものではなく、実は、もうすぐそこまで来ている事実上の危機なのだ、ということがおわかりいただけることと思います。

 今日、明日にできることではありませんが、国民を守るために少しでも食料自給率を上げなければならない時が来ているのです。筆者が前回、今回と2回にわたって提案させていただいた、失職者の方々の農業へのシフトを実現することができたら、それで十分とはいえないまでも、ある程度の支えにはなり、国民の多くがこれまでの考え方を改めて、農業を含めた第一次産業の重要さに目覚めるきっかけになるのではないかと、期待する次第です。

 私たちは今になって、国の無策を、政治家の無能を嘆いても仕方がないことはわかってはいますが、最後の、一縷の望みをつないでいる、というのが現状であると思います。

 それはそれとして、これからは自分の力で食料の確保をしていく以外に手はないのかもしれないと、筆者は真剣に考えています。
(文=南清貴/フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会代表理事)

南清貴

南清貴

フードプロデューサー、一般社団法人日本オーガニックレストラン協会
代表理事。舞台演出の勉強の一環として整体を学んだことをきっかけに、体と食の関係の重要さに気づき、栄養学を徹底的に学ぶ。1995年、渋谷区代々木上原にオーガニックレストランの草分け「キヨズキッチン」を開業。2005年より「ナチュラルエイジング」というキーワードを打ち立て、全国のレストラン、カフェ、デリカテッセンなどの業態開発、企業内社員食堂や、クリニック、ホテル、スパなどのフードメニュー開発、講演活動などに力を注ぐ。最新の栄養学を料理の中心に据え、自然食やマクロビオティックとは一線を画した新しいタイプの創作料理を考案・提供し、業界やマスコミからも注目を浴びる。親しみある人柄に、著名人やモデル、医師、経営者などのファンも多い。

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