“電子書籍、メルマガに代わる新しい電子メディア媒体”として人気のコンテンツ配信サイト「cakes」。このcakesに掲載されたあるコラムが物議を醸している。
問題となったのは、写真家・幡野広志氏による人気連載「幡野広志の、なんで僕に聞くんだろう。」。幡野氏は2017年末に血液のがんの一種である多発性骨髄腫を発症し、余命3年を宣告されたという写真家で、同連載はそんな幡野氏が投稿者の質問に答えるという趣旨の、人生相談のようなコラムだ。
この連載は、ときに相談者を突き放すようなコメントをすることもある幡野氏の回答が話題となり、今年2月には幻冬舎から『なんで僕に聞くんだろう。』として書籍化。11月には書籍化第2弾の発売も控えているというから、その人気のほどもうかがえよう。
問題となった10月19日掲載の最新回で幡野氏は、「大袈裟もウソも信用を失うから結果として損するよ」とのタイトルで、23歳の女性からの相談に回答したのだが……。
幡野広志氏「正直なところぼくはあなたの話を話半分どころか話8分の1ぐらいで聞いています」
この相談者の女性は学生時代、妊娠を機に現在の夫と結婚をしたというが、「食事や掃除、子育てについて毎日何度もダメ出しをされ、深夜だろうが叩き起こされやり直しました」「嫌気がさして実家に帰ろうとすれば主人の実家に引きずっていかれ、数時間にわたる義父からの説教」と、事実だとすれば明らかにドメスティックバイオレンス(DV)やモラルハラスメントといえる被害に、数カ月にわたってさらされ続けていることを告白。
昨年マイホームを建てて以降、夫の行為は落ち着いているものの、深夜まで仕事をしているという夫の言葉が嘘だったことが発覚し、夫への気持ちは冷めてしまった。相談者自身もアルバイトを掛け持ちし、フルタイムで働いているというが、今の生活や子どもの事を考えると離婚に踏み切れない……などとして、幡野氏にアドバイスを求めることとなった、ということのようだ。
しかしこうした相談に対して幡野氏は、「正直なところぼくはあなたの話を話半分どころか話8分の1ぐらいで聞いています。眉毛は唾で濡れています、ウソだけど」などと、相談者の話が盛大に“盛られた”ものである可能性を指摘。DVとも思われる夫からの行為についても、「これちょっと大袈裟にいってない?」「旦那さんは逮捕されるような案件でしょ」と、質問に正面からは向き合わないような回答に終始した。
その上で、「きっとそういうことではなく、それぐらいの感じで……ってことなんだろうけど、そういうことは第三者に相談するときにしてはいけません。だから先に書いておくけど、あなたからの相談には答えることはできません」と、最後には相談に対するアドバイスを拒否。「ぼくだろうが警察官だろうが、弁護士だろうが裁判官だろうが、大袈裟にいったらダメだよ。まぁ警察官も弁護士も裁判官もみんなすぐにあなたのことを見抜くとおもうけど」などと、説教とも取れるような言葉で回答を終えたのである。
幡野広志氏は謝罪し、記事は全文削除された
このコラムが公開されるやいなや、幡野氏のもともとの知名度の高さも相まってか、「DV被害者と思しき女性にこんな物言いするとはどういうことか」「相談内容を嘘だと断じるだけの理由がどこにあるのか」などと、幡野氏への批判がTwitterを中心に続出。また、「そもそも嘘だと思うなら、コラムで取り上げなければよいことでは」「この内容で掲載OKを出したcakes編集部にも問題があるのではないか」と、掲載媒体であるcakes側にも批判が集まり、炎上状態に発展した。
これを受けて、22日に幡野氏はTwitterで謝罪文を発表。「DVや虐待などを容認する意思は一切ありません」としつつも、相談者から「相談内容から周囲に特定をされること、ご主人にバレたときのことを懸念されていて、該当記事を削除してほしい」とTwitterからダイレクトメールをもらったとした。さらに、「DV被害がなかったかのように“大袈裟”や“ウソ”と決めつけて書いてしまったことを相談者さまにお詫びしたうえ、該当記事を削除する約束をいたしました」としている。
この謝罪文の通り、当該記事は同日中に削除された。また掲載媒体のcakes側も同じく22日に、「不勉強や配慮の不足から、事前に今回の記事を確認できる立場にありながら、これらの問題を見逃したまま記事掲載したことは、メディアを運営する立場として恥ずべきことだったと認識して、反省しております」と、こちらも謝罪文を掲載した。
さらに26日、cakes内の幡野広志氏の連載ページに、今回の騒動の経緯、およびそれについての幡野氏の見解を記した「10月19日に公開されたぼくの記事について」とのエントリーが公開された。同エントリーでは、上記22日の幡野氏のTwitterにあった、相談者本人と思しき者からの「記事を取り下げてほしい」というダイレクトメールが結果として偽物であったこと、さらにそのうえで、本物の相談者とその後やり取りを重ねることができ、真摯に謝罪したことなどが記されており、騒動は一応の収束を見たのである。
cake編集部にも見解を問うたところ、「今後のメディア運営を見直していく予定です」
著者である幡野氏のDV問題への無理解もさることながら、明らかに問題があるといわざるを得ない今回の記事が最終的に掲載にいたってしまったのはなぜなのか。ことの経緯を聞くべくcakes編集部に取材の申し入れをしたところ、担当者より以下の回答を得た。
・幡野氏が今回の記事で、DV被害者と思われる方からの相談内容について嘘だと断じるに至った理由や経緯についてお聞かせください。
「申し訳ありませんが、著者の価値観や感性を推測でコメントすることは出来かねます」
・幡野氏の記事を掲載するに当たってはcakes編集部が事前に確認をされたかと思いますが、その内容で掲載OKが出されるい至った理由や経緯についてお聞かせください。
「編集部の不勉強や配慮の不足によって、公開に至っています。相談者様はもちろん、多くのドメスティックバイオレンスやモラルハラスメント被害者の方を傷つけてしまいました。また、多くの被害者が、その相談を信用されないという問題を助長してしまいました。申し訳ありません」
・今後、同様の事態が繰り返されないために、編集部として何かしらの対策を取る予定はあるのでしょうか。ある場合、その内容についてお聞かせください。
「編集部員一同がドメスティックバイオレンス、モラルハラスメントの問題を学び、今後のメディア運営を見直していく予定です」
幡野広志氏のコラムが人気を博したのは、ときに相談者を突き放すような幡野氏の回答に、多くの読者が魅力を感じたからだろう。しかし、昨今社会問題化しているDVやモラハラについての相談について、相談者の主張を「嘘だ」と断じてしまった今回の回答については、さすがに“毒”が強すぎたといえそうだ。
(文=編集部)