4月1日、国勢調査によって静岡県静岡市の人口が70万人を下回ったことがわかった。人口減少が全国で顕著になっている昨今だが、静岡市の70万人割れは単なる地方都市の過疎化・少子高齢化という一現象にとどまらない。多くの地方自治体関係者に衝撃を与えている。
現・静岡市は2003(平成15)年に旧静岡市と旧清水市が合併して誕生。合併によって、人口は70万人を突破。それを受けて、05(平成17)年に静岡市は政令指定都市に移行した。平成の市町村合併が進められるまで、政令指定都市はおおむね人口100万人の都市に限定されてきた。そうした背景もあり、政令指定都市には大都会のイメージが少なからず定着している。
ところが、平成の市町村合併によって政令指定都市は必ずしも大都市ではなくなっている。平成の市町村合併は、地方分権の潮流と近い将来に想定される人口減少社会に対応するべく市町村の体力を強化するために推奨された。
市町村合併を促進するため、政府と総務省は自治体に多くのアメを用意した。その過程で、総務省は合併支援プランを策定。同プランでは、合併時に限り人口70万人で政令指定都市になれる条件の緩和を図った。
政令指定都市への要因が緩和されたことを受け、静岡市のほかにも06(平成18)年に大阪府堺市、07(平成19)年に静岡県浜松市と新潟県新潟市、09(平成21)年に岡山県岡山市、10(平成22)年に神奈川県相模原市、12(平成24)年に熊本県熊本市が相次いで政令指定都市に昇格している。
これらの政令指定都市は周辺の過疎自治体と合併したことなどから、今後は急速に人口が減少すると見られている。それだけに、静岡市の人口減少は他人事ではない。
静岡県都構想
では、なぜ静岡市の70万人割れが注目を浴びていたのか。
それは静岡県の川勝平太知事と静岡市が対立していることにも起因している。川勝県知事は、静岡県と県都・静岡市を合併させる静岡型県都構想を発表している。これは、橋下徹大阪府知事(当時)が提唱した大阪府と大阪市とを合併させる大阪都構想と類似した構想といえる。大阪府と大阪市の関係は、大阪府が広域自治体、大阪市が基礎的自治体で、関係上は大阪府が上位組織となっている。
しかし、政令指定都市は道府県と同等の権限を有する自治体と規定されているため、大阪府知事といえども大阪市長を飛び越えて大阪市政に介入することはできない。つまり、橋下大阪府知事でも大阪市に指示をする場合は、平松邦夫大阪市長(当時)の判断を仰がなければならない状態だった。
同様の構図は、静岡県と静岡市にも当てはまる。静岡県の場合、静岡市のみならず浜松市という政令指定都市もある。川勝県知事にしてみれば、自分の存在感が発揮できるのは静岡市と浜松市以外の市町村と限定的。川勝県知事にとって、政令指定都市は邪魔な存在でしかないのだ。
政令指定都市を束ねる指定都市市長会の職員は、大阪都構想や静岡型県都構想といった府や県が政令指定都市を合併する構想についてこう疑義を呈す。
「政令指定都市は、地方分権の流れを受けてつくられた大都市制度です。指定都市市長会は、地方分権の潮流は今後も進むはずで、そうしたことを踏まえて指定都市市長会は政令指定都市よりも強い自治権を有する“特別市”を要望しています。県が政令指定都市を合併するという、これまでの地方分権の流れに反することを知事が言い出すのですから『県知事は、地方分権を理解しているのか?』と思わざるを得ません」
県と政令指定都市の合併は、総務省が取り組む地方分権に逆行する。国の方針に反してまで合併を強行しない。しかし、人口が70万人を下回れば、政令指定都市としての役目を果たせない――。こうした考えから川勝県知事は静岡市に対して「人口70万人を割ったら、静岡市の政令指定都市を取り下げさせて、県型都構想を進める」と、静岡市の“解体”と“併合”を示唆した。
当然ながら、静岡市の田辺信宏市長は川勝知事に反発。多くの静岡市民も川勝県知事に不信感を募らせている。
現在、川勝県知事は3選出馬に意欲的で、当選するためには大票田の静岡市民の気持ちを逆撫でする静岡型県都構想は封印するだろう。静岡市民にとってみれば、川勝県知事は不倶戴天の敵。それだけに市民からは有力な対立候補望む声もあるが、「前回の県知事選で、自民党が擁立した候補者がボロ負けした。そうしたこともあって、対立候補の擁立は難航している」(静岡市の政界関係者)という。
川勝県知事が当選すれば、再び静岡型県都構想は動き出すだろう。そうなれば、静岡市とのバトルは避けられない。早ければ、今年の夏にも静岡県と静岡市の大戦争が勃発する。
(文=小川裕夫/フリーランスライター)