もうひとつ池沢氏が指摘するのは、「選書リストは発注リストであって、納品リストではない」ということ。つまり、多少不完全でも、本のタイトルなどがわかれば受注した側が調べて対応するはずだから、作成者がたまたま手を抜いて、「978」を省略しただけの可能性も捨てきれないというのである。
しかし、それは考えにくい。それは、以下の理由からだ。
CCCが一昨年1月に市教委へ提出した見積書では、新刊は「TRC(図書館流通センター)から購入」と明記している。筆者は何度も購入先が「TRC」であることを多賀城市教育委員会に確認した。
もしTRC経由ですべての新刊を発注するのであれば、TRCが採用していないISBNを使って選書リストを作成しているのは不可解だ。つまり、第8回選書リストは、少なくとも作成時点で、TRCではない業者の保有する在庫データに基づいていると考えられる。
奇妙なコードの出所
では、いったいなぜ、規格外のISBNが、新刊選書リストに約1600件も混入していたのだろうか。
「新10」の出所こそが、このリストの謎を解く最大のカギとなる。
そこで筆者は、10ケタのISBNリストを中古書店の販売ページと比較してみた。比較対象としたのは、国内最大級の中古本ネット販売サイトの「ネットオフ」だ。
ネットオフといえば一昨年9月、「ツタヤ図書館」第1号として注目された武雄市図書館で、不適切な選書が問題となった。その問題に関してCCCが謝罪文を発表したが、そのなかで「ネットオフ等より商品リストを事前に確認のうえで購入」と、仕入れ先であることを明かしている。
ネットオフはかつてCCCのグループ企業であったが、すでに資本関係を解消したとされている。だが今回、多賀城市立図書館の新装開館にあたっても、16年3月20日付産経新聞で「1万冊超は、古書店のネットオフから購入した」と、その社名が新聞報道されている(『宮城にツタヤ図書館開館 全国3例め、内覧会開く』より)。
ネットオフについては、第8回リストの冒頭部分との関連性を調べてはいたが、特に共通点をみつけられずにいた。だが、丹念に調べていくと、驚くべき事実が判明した。
下の表は、第8回リスト中にある「新10」が記載されている図書が、ネットオフの販売データではどうなっているのかを当てはめた結果だ。
ネットオフのデータとの符合
第8回選書リストNo.175以降の29冊が表示されているページに記載されているのは、すべて「新10」である。
そして、その右欄に記したのがネットオフの販売サイトで表記されているISBNだ。ただの一冊も違わず、見事に選書リストの数字と一致している。カッコで囲って併記している13ケタのISBNから「978」を除いた数字とまったく同じであることは、この10ケタが旧ISBNではないことを証明している。
「たまたまネットオフでも、978を省略しているだけではないのか」と思う向きもあるかもしれないが、下の表をみてもらいたい。
これは、同じ第8回選書リストのなかで、978を省略していない13ケタのオーソドックスなISBN(以下、「新13」)が並んだページでのネットオフ販売データとの比較だ。ネットオフが「新10」を標準コードに採用しているなら、同社で販売するすべての本が「新10」で統一されているはずだ。
ところが、おかしなことに、ここに表した「新13」の本は、ネットオフのサイト上でも数冊を除いて「新10」ではなく「新13」が表記されている。
さらに、しつこくもうひとつ比較データを出しておくと、これも第8回選書リスト中にある、「旧10」が並ぶページをネットオフ販売データと比較したのが下の表だ。こちらも数冊を除いて、選書リストとネットオフの表記が一致している。
完全に一致しないのは、選書リストがネットオフからのデータだけでなく、本当に新刊で購入したものや、別の業者に発注したものも合わせて作成されているためと推察できる。
つまり、ここに抽出した限りでは、選書リストで「新10」のものはネットオフでも「新10」、選書リストで「新13」のものはネットオフでも「新13」、選書リストで「旧10」のものネットオフでも「旧10」なのである。
このような一致が偶然であるとは考えにくい。つまり、CCCがネットオフのデータを基に選書したか、あるいは選書リストそのものをネットオフが作成代行してCCCに提出したのではないかと推察することができる。
そこで、CCCに直接問い合わせをしたところ、中古本を新刊として購入したかとの問いについて否定したが、購入先については公表を拒否した。そのやり取りについては、次回紹介したい。
(文=日向咲嗣/ジャーナリスト)