東京・築地市場の移転問題をめぐり小池百合子都知事は6月20日、市場を豊洲に移したうえで築地を再開発し、5年後をめどに一部業者を戻す方針を表明した。いわば、豊洲市場と築地市場の両立を打ち出したわけである。
昨年8月、「安全性への懸念」などを理由に小池知事が豊洲市場への移転延期を表明してから、「安全・安心」が最大のテーマになったが、現時点では豊洲市場の「無害化」は達成できていない。そのため、約束を守れていないとして、小池知事は6月17日に市場業者に謝罪した。
こうした姿勢は評価すべきだが、「安全・安心が確保できない。今の状況では豊洲に移転できない」「毒のあるところには行けない」という市場業者の声にどう答えるのか。また、豊洲への移転に向けてどのように不安を払拭するのか。さらに、築地と豊洲を併存させて採算が取れるのか、5年後に一部業者を円滑に築地に戻せるのかという疑問も残る。
そのうえ、これは移転推進派と反対派の双方にいい顔をする案で、二者択一の決断を下すことによる批判を避けるための折衷案ではないかという指摘もある。たしかに、「決められない知事」と非難され、「東京都議選前に、移転可否を早く決めて」というアンケート結果を突きつけられた小池知事が、できるだけ批判を受けないようにするために折衷案を選んだ可能性は大いにある。
もしそうだとすれば、都議選を見すえた「選挙目当て」の戦術ともいえるが、このような折衷案を選ぶと、とたんに小池知事の歯切れは悪くなる。これは、当然である。わかりやすい敵を見つけて攻撃し、共感を集めることによって、小池知事は政治家として成功してきたのだから。
このように敵をつくって攻撃する手法のお手本を示したのは、小泉純一郎元首相だろう。郵政民営化に反対した議員に「抵抗勢力」というレッテルを貼り、公認せず、刺客を送った。小池知事自身が、小泉元首相の送り込んだ刺客として、衆院東京10区で分裂選挙を戦ったのだから、その手法を間近で学んだはずだ。
都議会自民党を「抵抗勢力」と位置づけ、敵と戦う姿勢を明確に示してきたにもかかわらず、小池知事は、敵が主張していた豊洲移転を盛り込んだ折衷案を選ばざるを得なかったのだから、歯切れが悪くなるのは当然だ。