――中国がアメリカの要求に従わず、北朝鮮の増長が止まらないとすれば、どういう事態になるのでしょうか。
渡邉 北朝鮮情勢が切迫しても、アメリカは地上戦を展開するつもりはないでしょう。泥沼化して、ベトナム戦争の二の舞いになるからです。ジェームズ・マティス国防長官は元軍人で「狂犬」との異名を取ることから、好戦的な人物だと思っている人も多いかもしれません。しかし、実務家であり、「軍人ほど、実は戦争をやりたがらない」という側面があるのも事実です。
中東でも同様ですが、アメリカは消耗戦になればなるほど形勢が悪化します。なぜなら、アメリカでは軍人が1人死亡すれば、遺族への補償などで約9000万円のコストがかかるといわれているからです。つまり、大量の死者を出すような戦況はコストパフォーマンスが悪すぎる。
そのため、金融をはじめとする経済制裁によって、カネやモノの流れを止めるという手段がメインとなっているわけです。いわば“兵糧攻め”であり、それが「金融制裁戦争」の本質です。そして、そのためには、反社会的勢力に対して国際的に団結する姿勢が求められています。
「テロ等準備罪」で始まる反社会的勢力の排除
――翻って、日本では「テロ等準備罪」法がスタートしました。
渡邉 それに伴うTOC条約の締結によって、日本のテロ対策は飛躍的に強化されることになります。そもそも、TOC条約はすでに187の国・地域が締結しており、国際連合加盟国の94%にあたります。未締結は小国ばかりであり、これまで日本は世界の趨勢に大幅に乗り遅れていたといえます。
TOC条約の締結によって、世界各国と犯罪者やテロリストに関する捜査情報を共有することが可能となります。「テロ等準備罪」の成立をめぐっては「審議期間が短すぎる」「現状のままでもTOC条約を締結できるので、必要ない」という主張もありましたが、これはミスリードと言わざるを得ません。
詳しくは本書で述べていますが、そもそも日本はTOC条約の取り締まり機関である「FATF(マネーロンダリングに関する金融活動作業部会)」から、数回にわたって法整備に関する勧告を受けていたのです。
――「日本もテロの脅威にさらされている」ということでしょうか。
渡邉 言うまでもなく、北朝鮮の増長は日本にとって大きなリスクです。そして、その北朝鮮をアメリカは「テロ支援国家」に再指定しようとしています。加えていえば、朝鮮半島における朝鮮戦争はいまだ「休戦中」であり、終わっていない戦争がすぐ近くに存在しているのです。
また、6月には、サウジアラビアなど6カ国が「テロ組織を支援している」という理由でカタールとの国交断絶を発表しました。フィリピンのミンダナオ島では、「IS(イスラム国)」関連の武装組織が島を占拠するという事態が起きています。中東の混乱やヨーロッパでテロが頻発している現状については、言わずもがなでしょう。
7月に行われたG20(20カ国・地域)首脳会議でも「テロ対策に関するG20首脳声明」が発表されましたが、テロ対策および反社会的勢力の排除は世界的な潮流です。
『決裂する世界で始まる金融制裁戦争:米中朝の衝突で急変するアジア 共謀罪・マイナンバーで叩き潰される者たち』 北朝鮮問題に何ら対処せず、ICBMの開発を許した中国に対して、米国はついに金融制裁を発動! 朝鮮・アジア情勢は今後、新局面へと突入する。 一方、日本はテロ等準備罪が成立し、パレルモ条約締結にようやくこぎつけた。これでマイナンバー、テロ3法と合わせて、中国・北朝鮮とつながる反日過激派テロリストが炙り出されることになる。 激変する世界のなかで進む「金融制裁戦争」の行方とは!?