日本看護協会が昨年12月22日に開いた記者会見で、福井トシ子会長は、コロナ禍で看護師への差別と偏見がますます増えていると訴えた。第1波が襲来したときに医療従事者への差別と偏見が頻発したが、一向に事態は改まっていないのだ。
会見で発表された「看護職員の新型コロナウイルス感染症対応に関する実態調査」の結果によると、調査対象の看護師(有効回収数3万8479件)で、20.5%(7904件)の看護師が、差別・偏見が「あった」と回答した。
差別・偏見の内容は多い順に「家族や親族が周囲の人から心無い言葉を言われた」「患者から心無い言葉を言われた」「地域住民から心無い言葉を言われた」「勤務先の同僚から心無い言葉を言われた」「家族や親族が勤務先等から出勤を止められた」「子どもが通っている保育園・学校等から入室を断られた」だった。
福井会長はこの事態について「20.5%はたいへん多い数字だと思う。他の団体の調査でも20%を超えている。第3波が来てからは、形を変えて差別や偏見が酷くなっている」と深刻に受け止めている。こんな例があるという。
「コロナに感染した患者が入院すれば、その患者に対して看護職は防護服を着て対応するが、『どうして私のところにそんなに大袈裟な格好をしてくるのか?』と言われることがある。患者は不安だから、そういう対応をせざるを得ないのかもしれないが、コロナ問題を自分事として考えない人が増えているのではないか。それが第三者への攻撃的な発言として現れていることは、状況として歪んできていると思う」
本来なら謝辞を述べるべきところ、差別や偏見が続くようでは看護師の士気の低下は避けられない。この問題は国民にいくら呼びかけたところで、失業や減給による生活困窮者や自殺者が増加して世相が荒廃に向かう時勢に、容易に解消されるとは考えられない。看護師の人権問題として俎上に載せるべきでないのか。
看護師の数が不足
さらに福井会長は看護師不足を取り上げた。
「そもそも日本全体で看護師の数が不足しているので、コロナ対応で大変な病院に対して、うちの病院から看護師を派遣しようという応援が簡単にできない」
調査によると「看護職員の不足感があった」と回答した病院は34.2%。感染症指定医療機関・新型コロナウイルス感染症重点医療機関・新型コロナウイルス感染症疑い患者受入協力医療機関ではさらに不足感が強く、45.5%に達した。
看護師が不足した場合の確保方法では「病棟再編成や配置転換等により院内で人手を確保した」が圧倒的に多く、全体で68.9%、感染症指定医療機関等では79.6%。過半数が院内での確保に頼っていたのだが、日看協が都道府県看護協会からの要請を受けて看護師を応援に派遣する仕組みを整備し、北海道には岩手県から1名、東京都から3名、大阪府には奈良県から1名、東京都から2名の派遣手続きを進めている。
全国70万人と推計される潜在看護師の雇用も進んで2015名(12月7日時点)が復職したが、調査では、潜在看護師の雇用に意外にも病院が積極的とはいえない現状が明らかになった。
「雇用する」は病院全体の53.7%、感染症指定医療機関等では47.8%にとどまった。「どちらともいえない」は、それぞれ41.2%、44.7%。「どちらともいえない」と「雇用しない」と回答した病院において、雇用しない主な理由は「潜在看護職員の知識・技術の程度がわからない」「感染症下では教育・研修の余裕がない」「看護職員を加配する経営的な余裕がない」だった。
ホテルでの軽症者対応が多かった第1波に比べて、第3波では院内での重症者対応が増えた。その結果、ICU勤務経験を持つなど即戦力が求められているため、潜在看護師をすぐにコロナ専用病棟での戦力に起用できない事情があるという。
この調査では、新型コロナウイルス感染症対応を理由とした離職状況もわかった。病院全体の15.4%が、コロナ対応に起因する離職が「あった」と回答。感染症指定医療機関等では「あった」が21.3%と病院全体を上回った。
「家族が感染を心配して退職を促しているケースが多い。近所の人から心無いことを言われたりして、感染が心配なのはわかるが、病院は十分に感染対策をしていることを理解してほしい」(福井会長)
清掃や洗濯などすべての業務が看護師に
だが、看護師の業務負担は改善されるどころか、ますます過酷になっている。福井会長は次のように報告した。
「第1波に比べて第3波では、看護職の就労環境はますます悪化していると言い切ってよい。重症者の病棟に清掃業者などは入ってこられない状況で、清掃や洗濯などすべての業務が看護職に回ってきていて、本来の業務に専念できていない。病院で働いているのは看護職だけではない。各部門・全職種を含めて施設全体で業務遂行体制を見直してほしい。日看協は清掃業の業界団体と話し合いをする」
看護師には使命感の強い人が多いが、多くの看護師の心身はもはや限界に達しているという。
「新型コロナに対応する看護職だけでなく、一般の病院や福祉施設の看護師、保健所の保健師は、疲労困憊の状態が今年の春から続いていている。報われていると思うことも看護師には必要ではないだろうか。いくら強い使命感を持っていても、給与の減額やボーナスのカットによって心が折れてしまう。危険手当の支給も含めて一刻も早く財政支援をしてくれるように、国に引き続き要請していきたい」
コロナ禍で医療と経済は対立関係に捉えられ、ともすれば双方の関係者とも自陣営の都合を主張しがちだが、福井会長は会見当日の夜に出演したテレビ番組で「大変なのは看護職だけではなく、飲食業や観光業も大変なことはわかっている」と理解を示した。
(文=編集部)