神戸山口組傘下で、岡山県に拠点を置く三代目熊本組に激震が走った。同組の若頭で三代目藤健興業・横森啓一組長が、暴力団対策法違反容疑で全国に指名手配されたことが、1月20日にわかったのだ。
藤健興業は、三代目熊本組の中枢組織で、創設者は三代目熊本組・藤原健治組長だ。つまり当代を輩出させた有力組織なのである。熊本組では最大勢力といわれており、12月には六代目山口組系組員が熊本組関連施設へ発砲した容疑で逮捕されているが、その標的のひとつとなったのが藤健興業本部であった。
しかしなぜ横森若頭が全国指名手配されたことで、業界内がざわついているのか? それは容疑とされる犯罪性の重さよりも、指名手配に至った容疑内容によるところが大きい。
現在、六代目山口組と神戸山口組は、特定抗争指定暴力団に指定されており、それによって設けられ警戒区域内では、組員がおおむね5人以上で集まることが禁止されている。しかも、罰則は決して軽いものではない。3年以下の懲役または500万円以下の罰金と定められているのだ。これはちょっとした暴行事件より、重い処罰なりうるということだ。
今回の容疑は、12月下旬に三代目熊本組関係者が大勢集まり、警戒区域である岡山市内で会食を行ったというもの。すでに10人が逮捕され、横森若頭ら3人が指名手配された。
「確かにヤクザに対する厳罰化は進んでいる。それは仕方ない。ただ今回のように、ただ5人以上の人数で会食しただけで、逮捕というのは人権侵害も甚だしいのではないか。複数が集まって、犯罪的行為を計画し、その相談をしていたというのならわかる。だが、今回は年末ということで慰労の会食を開いただけで、10人以上も逮捕したというのだから、当局のヤクザに対する弾圧も行き過ぎていると感じずにはおれない」(業界関係者)
ただ、横森若頭らも、厳しい罰則が待っているとわかっていながら、なぜ警戒区域内で制限を超える人数で会食を開催したのか。そこには、どうもこんな事情があったらしい。
「実は集まった幹部らは、そこが警戒区域だと認識していなかったようなんです。確かに岡山市は警戒区域となっていますが、幹部たちは、飲食店が岡山市内に位置するという認識がなかったのではないかという話です。というのも、もともとはそこは岡山市でなく、その後に市町村合併され、岡山市に組み込まれた場所だったようです」
つまり、違法行為という認識も故意性もなく、単に土地勘が乏しいために起きてしまった問題ということなのだ。
ただ今回の件をきっかけに、こうした摘発が今後は増加するのではないかと業界関係者らから危惧する声も上がっている。
「警戒区域だけの問題ではない。警察はヤクザの組員には、“Gマーク”というものをつけ、登録している。これは本人に告知されるわけでもない。つまり警察側の判断によるもの。組を抜けた場合でも、県警や所轄に出向き、組織を離脱したという説明をした上で、当局側と調書を巻かないと、Gマーク認定は外れない。逆に、実際には組員ではない人物がその交友関係などからGマークをつけられていることもあり、その人間が食事にいる場で、たまたま他のGマークがついている組員たちと遭遇し、気がついた時にはGマークが5人を超えてしまっていた、なんてこともあり得るのではないか」
確かに、この関係者が言うように、そこでたまたま居合せてしまうというケースもあるだろう。その状況に対して、当局による現認もしくは第三者による通報などがあれば、摘発の対象になるのではないかという危惧が生まれているのだ。
このような特定抗争指定暴力団に指定されたことによる、対象組織に対する厳しい取り締まりと罰則の運用は、今後も六代目山口組分裂問題の終焉まで続くことになるだろう。