日本で新型コロナウイルスの感染が認められてから1年が過ぎようとしている。この間、2度の緊急事態宣言が発せられ、感染の拡大を招くとして、外食の規制が厳しく実施された。また、外国人観光客の途絶で、インバウンド需要もなくなった。このような事態を受けて、日本の食は激変した。
32兆円を超える市場規模(2016年)を持つ外食産業が、店舗閉鎖ないし時短営業を余儀なくされているのだから、その影響は甚大である。また、その反動で家庭での食事の“巣ごもり需要”も拡大した。
日本フードサービス協会の発表(1月25日)では、2020年の外食売上高(全店ベース)で19年比15%減少したとのこと。特に、居酒屋・パブは、50%減と大きく減少した。
他方、ニッセイ基礎研究所によると、20年3月から9月までの家計調査で食事代と飲酒代は大きく減少する一方、家庭内の巣ごもり需要で、パスタや即席麺、生鮮肉などの支出が増大したとしている。さらに、「コロナ流行下における食生活の変化」(近藤尚己京大大学院教授)によると、緊急事態宣言以前より自炊回数は1カ月あたり4.5回増加、野菜摂取量も1人あたり385g増加したとのこと。また、果物の摂取量も増えた。
1980年代から一家団欒が消えたといわれる日本の食。低賃金長時間労働と共働きの進行の下で、日本では孤食が広がっていった。同時進行で外食産業が急成長し、32兆円もの市場規模を持つ産業を形成した。それがコロナ禍の下で一家団欒の復活と外食産業の縮減という事態に陥ったわけである。
蕎麦の輸入は32%減少
このような食料消費の激変は、外食産業が依拠していた輸入農畜産物の輸入を大きく減少させた。
2020年の輸入量は、対前年比で次のように減少している。
・タマネギ:21%減
・ネギ:15%減
・ブロッコリー:28%減
・結球キャベツ:9%減
・ゴボウ:9%減
・パプリカ:14%減
・ショウガ:9%減
生鮮野菜全体で13%減少となっている。これらの輸入農産物は、韓国からの輸入が主体のパプリカを除くと、中国からの輸入に依存している。中国産タマネギはムキ玉といわれ、外側の皮を剥いた形で輸入され、外食産業ではそのまま加工できるので重宝されている。中国産ネギも加工用、外食産業向けに使われている。ゴボウも今や国内流通の3割が中国産である。
さらに冷凍野菜でも5%減となっている。果実でも、メロンが21%減、レモンが18%減、マンゴーが9%減と、宴会需要減少を反映して減少している。食肉でも外食産業などの業務用需要が減少した影響で、前年比で牛肉が2%減、豚肉が7%減、鶏肉が7%減となった。乳製品でも同様にナチュラルチーズが4%減、バターが26%減、脱脂粉乳が18%減となっている。
外出や通勤抑制で、立ち食い蕎麦の需要が減少したため、蕎麦の輸入が32%減少し、飲み会の減少でボトルワインの輸入が7%も減少している。
外食産業は激しい価格競争のもとで安い輸入農畜産物によって経営を維持してきた。外食産業の縮減でこれらの農畜産物の輸入が減少するのは当然であるが、これによって食料自給率も上がる可能性がある。日本の食料自給率引き上げの道筋の一つが明らかになったともいえる。
(文=小倉正行/フリーライター)